志穂美悦子が「鬼無里(きなさ)まり」の芸名でシャンソン歌手としてデビューするらしい。いわゆる歌う女優について研究してみることとする。
女優が映画の中で歌うのは、ドロレス・デル・リオの「ラモナ」(1928)やマレーネ・デートリッヒの「嘆きの天使」(1930)以来めずらしいことではない。1931年「会議は踊る」でリリアン・ハーヴェイが歌った「唯一度だけ」は世界中で大流行した。ジャネット・マクドナルドの「恋人よ我に帰れ」(ニュー・ムーン)もジャズのスタンダードになった。30年代活躍したアイリーン・ダンも歌手としてスタートしている。1946年にはリタ・ヘイワ―スが「ギルダ」で歌い、50年代になるとマリリン・モンローは「帰らざる河」ほか何本も劇中で歌うシーンがある。モーリン・オハラ(ジョン・フォード監督作品やジョン・ウエインの西部劇に出演)はウエールズやアイルランド民謡などをさらりと歌い、歌手としても活躍した。ブリジッド・バルドーやクラウディア・カルディナ―レも映画のシーンで歌った。60年代から70年代にかけてはアン・マーグレットやバーバラ・ストライザンドなどミュージカル・スターも現れた。80年代には1982年フィービー・ケイツが「パラダイス」で歌う。近年「レ・ミゼラブル」のアン・ハサウェーや「美女と野獣」のエマ・ワトソンの歌唱力が話題となった。近年女優のもう一つの才能として歌唱力が問われることが多い。韓国でも人気女優キム・ソヒョン(17歳)新ドラマ「戦おう、幽霊」(2016)の中で「Dream」を歌う。
わが国では大正6年(1917)芸術座「生ける屍」で松井須磨子が劇中歌「今度生まれたら」(北原白秋作詞、中山晋平作曲)が歌う女優第1号である。映画界では1930年代トーキーの時代になると歌う女優が注目された。ポーラ・ネグリ「夜のタンゴ」(1937)などなど大女優は歌っている。歌う女優№1はジュディ・ガーランド。近頃の日本の女優さんはあまり歌わない傾向にある。堀北真希主演の映画「麦子さんと」は死別した母の故郷でその青春の足跡を追う、親子愛を描いた作品で佳作であったが、残念なことに堀北が歌唱力不足のため自身で「赤いスイートピー」を歌う場面がなかった。
日本映画界で歌う女優としては高峰三枝子、高峰秀子、田中絹代、美空ひばり、奈良光枝、朝丘雪路、浅丘ルリ子、吉永小百合、倍賞千恵子、梶芽衣子、由美かおる、山口百恵、桜田淳子、薬師丸ひろ子、原田知世などがいる。最近の女優さんはおおむね歌いたがらない傾向にあったが、21世紀になると変化がおこる。2016年橋本環奈が映画「セーラー服と機関銃 卒業」でソロデビューする。橋本は福岡のローカル女性アイドルグループの一員。2013年5月「博多のタケ」さんというアイドルを追っかけているブロガーが彼女の歌って踊る写真をネットに投稿したところ「天使すぎる」と話題になり、「千年に1人の逸材」として注目を集めた。「動きのあるステージ中は、こちらに顔を向いてもどうしても目を瞑ったり失敗写真が多くなるのですが、彼女の場合はそれがほとんどありません。ダンス中の表情は常に変化し、見られる、撮られる事を意識しているのでベストショットがすごく撮りやすい」とタケさんは語る。土屋太鳳もアニメ「フェリシーと夢のトウシューズ」の主題歌に初挑戦。葵わかなもミュージカルに挑戦している。「ドライブ・マイ・カー」の三浦透子も精力的に歌手活動している。いま人気の今田美桜もダンスやパフォーマンスしている姿を見てみたい気がする。
「あの女優も歌っていた年表」
「歌は三分間のドラマ」というが、女優が歌うと説得力がありヒットする確率は数パーセントは高くなる。1960年代の青春歌謡ブームのなかで吉永小百合と本間千代子らが競うように歌っていた。最近では、大竹しのぶが舞台で「愛の讃歌」などを歌っているが、全体としては歌唱力のある女優は少なくなった。歌手から女優へというパターンもある。永作博美は成功例。
轟夕起子「お使ひは自転車に乗って」 1943
十朱幸代「いたずら恋の風」 1961
吉永小百合「寒い朝」 1962
倍賞千恵子「下町の太陽」 1962
本間千代子「愛しあうには早すぎて」 1964
西尾三枝子「スカーレットの花」 1965
高田美和「アキとマキ」 1966
和泉雅子「二人の銀座」 1966
内藤洋子「白馬のルンナ」 1967
由美かおる「みんなあげましょう」 1967
扇ひろこ「新宿ブルース」 1967
藤純子「緋牡丹博徒」 1968
朝丘雪路「雨がやんだら」 1970
岡崎友紀「私は忘れない」 1970
渥美マリ「可愛い悪魔」 1970
関根恵子「愛の出発」 1970
梶芽衣子「怨み節」 1972
坂口良子「あこがれ」 1972
野際陽子「非情のライセンス」 1973
島田陽子「勇気をだして」 1973
桃井かおり「六本木心中」 1973
大竹しのぶ「みかん」 1976
十朱幸代「セイタカアワダチ草」 1977
伊藤かずえ「ひとりぽっちの村祭り」 1978
竹下景子「結婚してもいいですか」 1978
松坂慶子「愛の水中花」 1979
大空真弓・若原一郎「愛しているかい」 1979
薬師丸ひろ子「セーラー服と機関銃」 1981
杉田かおる「鳥の詩」 1981
川上麻衣子「白夜の世代」 1981
桃井かおり「ねじれたハート」 1982
安田成美「風の谷のナウシカ」 1983
伊藤麻衣子「微熱かナ」 1983
荻野目慶子「愛のオーロラ」 1983
富田靖子「オレンジ色の絵葉書」 1983
沢口靖子「潮騒の詩」(刑事物語3) 1984
安田成美「風の谷のナウシカ」 1984
斉藤由貴「卒業」 1985
高岡早紀「真夜中のサブリナ」 1988
深津絵里「マリオネット・ブルー」 1988
裕木奈江「硝子のピノキオ」 1990
観月ありさ「伝説の少女」 1991
篠原涼子「恋しさとせつなさと心強さと」 1994
坂井真紀「太陽が教えてくれる」 1993
酒井美紀「永遠に好きと言えない」 1993
永作博美「My Home Town」 1993
奥菜恵「この悲しみを乗り越えて」 1995
中谷美紀「砂の果実」 1997
松たか子「明日、春が来たら」 1997
広末涼子「MajiでKoiする5秒前」 1997
満島ひかり「パラシューター」 1997
木村佳乃「イルカの夏」 1998
深田恭子「最後の果実」 1999
柴咲コウ「月のしずく」 2003
上戸彩「愛のために」 2004
国仲涼子「琉球ムーン」 2004
福田沙紀「アタック№1」 2005
沢尻エリカ「タイヨウのうた」 2006
長澤まさみ「セーラー服と機関銃」 2006
綾瀬はるか「ピリオド」 2006
松下奈緒「Moonshine 月明かり」 2007
新垣結衣「赤い糸」 2008
宮崎あおい「ソラニン」 2010
上野樹里「えがおのはな」 2010
北乃きい「サクラサク」 2010
川島海荷「MajiでKoiする5秒前」 2010
真木よう子「星影の小径」 2011
武井咲「恋スルキモチ」 2011
剛力彩芽「友達より大事な人」 2013
瀧本美織(LAGOON)「君の待つ世界」 2015
橋本環奈「セーラー服と機関銃」 2016
上白石萌音「なんでもないや」 2016
門脇麦「REBORN」 2017
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