インドの財宝を挙ぐるも、
読書の楽しみにはかえがたし
エドワード・ギボン
家庭文庫とは、民間の個人が、自宅の一部を開放して、本を収集・提供して、読書活動を行なう私設の図書館のことです。自治会・婦人会・PTAなどのグループが公民館や集会所など地域の施設を利用して行うものを「地域文庫」と称しています。一個人がどんなに財力を投資して珍しい本を収集してもおのずと限界があります。スペースの問題と収集範囲の問題です。あらゆるジャンルにわたり収集し、かつ一定の新鮮度を保つことは至難の業です。非公開の文庫は鮮度が落ちてきます。スペースの問題も一万冊を超えることは難しいですが、一人の人が書棚に立つと視界に入るのは数千冊が限度です。つまり百万冊の大図書館だと膨大な書庫に迷い本と出合うことはかえって難しくなります。新刊書店も新しい本との出会いには刺激がありますが、出版洪水に溺れて適書との出会いはできません。古くもなく、新しくもなく、意図的な選書ではなく、教養人にとっての理想的な書棚づくりをめざしていきます。
日本にはいくつ大学があるだろうか。統計によると788校あるが、うち4分の3は私立大学が占めている。わたしの夢も私立の三流大学へ行って、映画同好会などに入って恋愛を楽しみたかったが、現実はそのようにはならなかった。青春小説といえば宮本輝の「青が散る」(1982年)である。お話は、新設大学に第1期生として入学した椎名燎平が主人公。燎平は入学手続きのため事務局の入口にいた。そのとき、真っ赤なエナメルのレインコートを着た娘が立っていた。「うーん、どうしょうかなァ。…迷うなァ」と言った。「俺も、どないしょうか、ずっと迷てるんやけど…」建物の白い壁に凭れかかると、娘はじっと燎平を見ていた。「まあ、…上級生が一人もおれへんという点は、気楽でええよなァ」その言い方がおかしかったのか、娘はくすっと笑うと、無言のまま笑顔を燎平に注いできた。娘はふいに事務局に入って行き、受付のガラス窓をあけて。「お願いします」と叫んだ。燎平はぼんやりとあとを追った。さっさと入学手続きを済ますと、娘は髪についた水滴をぬぐいながら、「お先に」と言い、それから軽く胸のところで手を振った。燎平も急いで入学手続きを済まし、彼はキャンパスを出た。それが佐野夏子と出合った初めての日であった。
宮本輝の『青が散る』はテニスというスポーツを初めて文学作品にした青春文学である。翌年にはドラマ化されたが、原作は茨木市にある追手門学院で関西の地名も多く出てくるが、ドラマでは東京が舞台となり、原作とは異なるトレンディードラマになっていた。二世タレントがデビューして、「青散る族」という流行語も生れた。
夕方、また買出し。宮本輝「青が散る」「錦繍」、小川洋子「ホテル・アイリス」「薬指の標本」、矢沢あい「エスケープ」、美内すずえ「ガラスの仮面2、3」、牧村久美「天使の歌 全5巻」。
渡部昇一の「知的生活の方法」(昭和51年)という本がある。まだインターネットもパソコンのない時代なので、データの整理技術など今読んでもあまり役立つ内容ではないかもしれない。だが読書の技術とか書斎の整え方とか結婚生活に至るまで言及しており読むとなかなか面白い。つまりは知的生活が内面の充実に役立つというのである。
渡部昇一にしても林望にしても「本は買うべし」「研究費を惜しむな」「身銭を切れ」という意見の識者は多い。その根拠は、本を買うのは結局時間の節約になるからだというのだ。借りた本は、赤線をひいて自分の手許に置くわけにいかない。借りた本は返さねばならず、要るときは手許にないから、要点をカードに取るとかノートに書くことになり時間と労力がいる。むしろアルバイトをして本を買うほうが、図書館から借りるより、結局は時間の節約になる。「時は金なり」の裏返しで「金は時なり」ということである。実際に自宅に膨大な書斎を持つことで徳富蘇峰も大宅壮一もジャーナリズムの雄となった。小説家にしても松本清張や司馬遼太郎の蔵書をみればわかるであろう。若い日、箕面にあるケペルの恩師の家を訪ねた時もその蔵書の多さに驚かされた。ただケペルは図書館人なのでベンジャミン・フランクリン以来の合理的な考え方には賛成で、万人がいつでも利用できるような公共図書館をもっと充実させることが重要であるということを主張してきたし、この考え方は今後も基本的には変わらない。よく「蔵書一代」といわれるが、ひとりの人がどんなに本を買い集めたところで10万冊を超えることはまずない。一般人の蔵書家で多くても1万冊前後、学者や著名な作家でも3万冊を超えることはない。故人が生前のときはその本はなるほど生かされるであろうが、おそらく遺族たちにとって何の関心もない古色蒼然たる本は邪魔な物であろう。
ただし一般人が3000冊あるいは5000冊前後の蔵書を有することは知的生産において武器になるという渡部昇一の説はまことにそのとおりである。図書館利用者で新刊書を毎日10冊くらいリクエストして、延滞して、督促を受け、また予約して、常に100冊くらい借りて、やはり読みきれない人がいる。時間と労力を費やしてあまり知性を磨くことに役立っていない。おそらく前に借りた本の書名も著書名も覚えいないだろうし、内容も身についていないだろう。ブックオフで新書100円の本を一冊買って、赤線引いて、精読する。それが100冊たまってNDCの分類順に並べて、毎日本の背を見て暮らす。ある時、論文やレポートを書く必要がでたとき、「その事柄はああ本書いてあった」と思い出し、書架から取り出し参考文献とする。お金が無いなら無料のPR雑誌を書店で集める。岩波書店の「図書」とか講談社の「本」とか新潮社の「波」とか、なかなか面白い記事がある。毎月、一読しておけば、いざというとき思い出せば役立つ記事も多い。インターネットの時代であっても、紙媒体の資料はなによりも読書という内面の充実を図ることに最適なので、自分流の書斎、あるいは自分のコレクションを構築されることは教養を高めるうえで効果的である。図書館利用は自分が所蔵できない高価な本とか入手不可能な学術書とか(いまは図書館間の相互協力サービスがあるので基本的にはなんでも最寄の図書館で取り寄せてもらえるはずである)補完的な利用の仕方にして、基本はまず自分の書斎を充実していくことが成功への近道であろう。もちろうこのような話はある程度生涯にわたって高いレベルでの知的生産をしていこうとしていく方への技術論であって、たんに暇つぶしの軽読書で十分という方は書斎は無用であり、図書館利用をフルに活用されることをオススメする。
富士の山ほど願って蟻塚ほど叶う
中山美穂主演の恋愛映画「蝶の眠り」を見ていると、物語の後半で、「偶然の図書館」として生まれ変わる家庭文庫が登場する。本の色によって配列した書棚の美しさを魅せる趣向である。
大きい願いをもっても、実際にかなうのはきわめて僅かなものである。この諺は江戸中期あたりからあったらしい。若い頃は理想の図書館とは広大で世界一の蔵書を誇る図書館だと信じて疑わなかった。しかしインターネットの時代を迎えて、必要な資料の多くがデジタル化されると、必ずしも大部な本を集積することは意味が無くなった。本でなくては味わえない資料をコレクションすること、いつでも手近かにあって読みたいときに読める、というほど良い冊数の本が理想の図書館の一要件となっている。いまアメリカでは郵便ポストのような小さな本棚を庭先につくり、地域の人たちに無料貸出するリトル・フリー・ライブラリーが流行している。つまり図書館は規模の大小ではなく、収集家が長い年月をかけて愛情をもって精選されたコレクションであればどんな図書館も選ばれる資格があるといっていい。小さな図書館がいいということは図書館だけにあてはることではない。「大きいことはいいことだ」というのはむしろ大きな間違いである。戦艦大和や武蔵は無用の長物だった。高層マンションや大型ショッピングモール、大型客船、巨大スタジアム、マンモス大学、すべてウイルスの前に無力化している。
NHKで放送されたドキュメント72時間「静かすぎる図書館」は京都吉田山にある私設図書館。12時から深夜0時まで開館している。ここにさまざまな人が集う。東洋医学を学ぶカナダ人。麻雀で遊び過ぎて留年した大学生。オラウータンを研究している院生。インパールに応召した父を偲んでビルマ語を学ぶ中年男性。新聞配達しながら数学教師をめざす人。不登校の体験をもつ女性。孤独のようにみえて孤独じゃない、どこか連帯感があって、居心地のよい空間なのだ。来館者はもっぱら図書館の本を使わずに閲覧席と閲覧机を利用することを目的として「持ち込み勉強=図書館」であるが、たくさんの本がかもしだす知的空間に惹かれてやってくる。
私設図書館には、京都のような自習型の図書館もあるが、正統派は東京の大宅壮一文庫のような一級資料を揃えた調査型図書館だろう。このような専門的な図書館を形成するためには長い年月と経費がかかる。比較的日常生活に本当必要な本がコンパクトに揃っていて、新しい発見もあるような、コンビニ型のオールラウンド私設図書館がないだろうか。
「図書館は成長する有機体である」という有名な言葉があり、たえず更新していなければ、それは死んだ書庫、あるいは本の保管庫にすぎない。段ボール箱に何万個本を詰め込んで持っていようと、それは所蔵しているとはいえない。書斎と図書館との違いは、蔵書数の違いではなく、地域に公開されているか否かではないだろうか。図書館と文庫の違いはあまり問題ではない。子ども文庫であろうが、大人向けの本があろうが、みな図書館である。理想の図書館とは、ひとそれぞれに考えは異なるであろうが、私は「たえず変化し、成長している図書館」と考える。資料的に新しくとも、すぐに色褪せ新鮮度は失われる。ジャンルが決まっていれば、その分野に興味のない人にとっては単なる紙の束にすぎない。万人が興味をいだき、手にとってみたくなる蔵書構成。そして自宅のリビングのようにくつろげる空間、無機質な近代的図書館ではなく、書斎のようでありながら、読みたい本がたくさんある。そんな理想の図書館を一生追求していきたい。
街角の本屋、オフィスの書棚、自宅の本棚、古本屋、地域文庫、さまざまな本のある空間を画像で見ていると、ちょっとした工夫でよくなるヒントが見つかる。
山本有三青少年文庫の閲覧室風景
真実一路の旅なれど
真実、鈴ふり、思い出す
白秋「巡礼」
本日は山本有三忌。北原白秋の詩で始まるこの有名な山本有三(1887-1974)の小説「真実一路」をはじめ「路傍の石」「波」「生きとし生けるもの」を文庫本で読んだのは中学生ころだっただろう。もちろん主人公の義夫や吾一などの正義感やヒューマニズムに共感を覚えた。だが長じて高校生になる頃、彼が戦時中、近衛文麿と親しい関係にあることや、戦後保守政治家になったことなどを知ると、熱も急速に冷めてしまった。宮本百合子は山本の諸作品を、社会問題を扱うとみせかけて、根本的な問題を棚上げしている、という鋭い指摘をしている。おそらくこれが今日的な作家山本有三に対する一般的な評価であろう。しかし彼の小説の多くは新聞の連載小説として発表されたものが多く(「生きとし生けるもの」「波」「風」「女の一生」「路傍の石」)、いかに大衆に支持され、大きな影響を与えたかはいうまでもない。昭和33年、東京都三鷹の旧居が「有三青少年文庫」として開館されたことは夙に知られている。ケペルが蔵書を一般に開放して文庫を開くことも、つまりは少年期に読んだ山本有三への共感があったからかもしれない。
勇気を自慢しあって、鉄橋にぶらさがった吾一を次野先生にやさしく諭す。「愛川、おまえは自分の名前を考えたことがあるか。吾一というのはね、われはひとりなり、われはこの世にひとりしかないという意味だ。世界に、なん億の人間がいるかもしれないが、おまえというものは、世界中に、たったひとりしかいないんだ。そのたったひとりしかいないものが、汽車のやってくる鉄橋にぶらさがるなんて、そんなむちゃなことをするんじゃない」
山本有三は、「光をもとめることが生あるものの本性である」という根本思想にたって、人間いかに生きるべきかを一貫してテーマとした作家であった。
2016年の世帯における情報通信機器の普及状況をみると、パソコン73%、スマートフォン71.8%となっている(「情報通信白書 平成29年版」)。携帯端末スマートフォンの普及によって、会社、学校、家庭などでいろいろな使い方ができる。とくに電子書籍として機能が注目される。どんどん進化すれば紙の図書の役割は大きく後退するだろう。読書施設「女性の書斎」はどうなるだろう。本のたくさんある場所で「アイポス」を読むという利用方法も考えられるのではないだろうか。共存共栄。自習や勉強に機能強化。「女性の書斎・ひとり好き」には次のような方もおすすめです。
資格や何かにチャレンジしたいが、具体的な一歩が踏み出せない人
喫茶店やファミレスでは集中して勉強でない
図書館の閲覧室の座席が確保できない
自分のノートパソコンやアイポスで勉強
●女性専用なので安心
●わずか200円で1日中利用できる
●静かで、長時間利用できる
●蔵書は1万冊あり、百科事典、辞書ならほとんど揃っている
兵庫県宝塚市伊孑志3-16-26
ロンドンには「ブックメイカー」という看板をみかける。これは製本屋ではない。賭博屋である。つまり競馬やドッグレース、サッカーなどの賭博を請け負う店である。なんでも賭けの対象になるようで、次の首相は誰か、ダイアナ妃は離婚するか、相撲の優勝は誰か、など何でもあるらしい。これは今に始まったことではなく、中世以来、イギリス人は賭博が好きだった。賭博に入れあげて、名家が落ちぶれたという話は五万とあるらしい。
ところで、英国貴族の象徴といえば、豪華な革表紙、天金入りの本がズラリと天井まで並んだ書斎のある邸宅であろう。だが、貴族にあまり読書家はいない。単なる飾りに過ぎず、それが証拠にページは一度も開かれた形跡がなく、ひどいのになると、装丁だけで中は木箱というのが多いのだそうだ。
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