クリント・イーストウッド讃歌
映画雑誌「スクリーン1993年3月号」の人気投票をみると不思議である。前年には「許されざる者」(兼監督)のクリント・イーストウッドは30位にもランキングしていない。男優部門の第1位はケビン・コスナーである。彼は誠実なアメリカ男を演じて、誰からも愛されるスターだった。「アンタッチャブル」「JFK」「ボディガード」までは良かったが、不倫や訴訟などで人気は急落した。もちろん完全無欠のヒーローなどこの世にいるはずもない。アメリカでは人気の出てきた男優には「ゲイリー・クーパーの再来」という評価がよく使われる。グレゴリー・ペック、ロック・ハドソン、ケビン・コスナー。クリント・イーストウッドもテレビ「ローハイド」で人気がでたころは、そう呼ばれたことがある。しかしその後の人生は必ずしも順調ではなく、個性的な役柄を選んだ。イタリアに渡り「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」で人気は決定的となり、ハリウッドに復帰して「ダーティーハリー」でマネー・メーキング・スターの道を歩む。以後、大作というよりもB級アクションを中心に活動し、映画の面白さを体現する姿勢は現代のプロの俳優・監督の鑑となる。95歳になっても現役で第一線のスターでいることは、ハリウッドの長い歴史でもないことだ。また意外に親日家でもある。日本での人気が低いのは映画七不思議の一つであろう。それは仲代達矢と共通するかもしれない。三船敏郎、高倉健、勝新太郎などの個性的なスターほどの人気はないが、演技力と芝居への情熱で長い第一線スターを維持してきた点に共通するものがある。役者人生に成功のセオリーはない。
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