ミッデルハルニスの並木道
むかしは学校に美術商が複製画の販売によく来ていた。一枚でも子供の小遣いで買うにはかなり高かったのでもっぱら見るだけだったが、強く印象に残る絵画がある。泰西名画といわれる一種だが、雲の多い高い空の下、画面の中央を遠くにまでつづく田園の並木道。遠近法と左右対称のシンメトリーの構図のお手本として美術の教科書にもよく採りあげられることが多い絵だ。向かって左側には高い塔のような建物、右側には民家が描かれている。人物も絵の中には数人描かれていて、ロイスダールの絵のように暗い感じはしないが、やはり物悲しい詩情が漂う。それはロンドンナショナルギャラリーが所蔵する「ミッデルハルニスの並木道」(1689)というマインデルト・ホッベマ(1638-1709)の17世紀オランダ風景画の傑作である。
ホッベマという画家について、あまり詳しいことは知らないが、ロイスダールの弟子だったが、1688年に結婚し、アムステルダムの葡萄酒および油の計量器検定官として働き、そのため一時画家は断念したかにみえたが、1689年に大胆な遠近法をとりいれた代表作「ミッデルハルニスの並木道」を完成させ、彼の名は美術史に永遠に刻まれたということである。
ところで、オランダにはこのようなポプラ並木が実際にあるのだろうか。現在、小村ミッデルハニルスにはこの並木道はないし、また当時存在したという確証もないという。いずれにしてもなんらかの形で実際の風景に触発されたにしても、この作品はホッベマ自身の自由な構想の所産と考えるべきであろう。ホッベマの作品はそれほど多く残されていないが、バルビゾン派の先駆的存在としてもっと評価されてもいいように思う。
ところで美術史のなかで、いつ頃、どのような過程をへて風景画が誕生したのかを問うてみるのは、興味深いことである。西洋では、ローマの絵画で風景は背景として描かれ、中世の宗教画でも要素的扱いとされていたが、ルネサンスの時代において自然認識の深化とともに遠近法が確立され、自然風物の背景が重視されるように至った。17世紀オランダでロイスダール、ゴイエン、ホッベマ、ベルメールらが自然風景を写実的に描いて風景画が確立されるようになったことは一般によく知られているが、それ以前から中世の12ヵ月の月暦図のなかに年中行事や風景が描かれていたり、ルネサンス期のネーデルラントの画家ヒエロニムス・ボスの作品のなかに奇妙な風景が見出される。(メインデルト・ホッベマ,Meindert Hobbem,The avenue Middelharnis)
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