城崎にて
交通事故、殺人事件、病死などなど。最近、悲惨なニュースが毎日流れている。死は人間だけでなく、生きとし生けるものすべてにおとづれる。蜂、鼠、イモリ、小さな生き物たちに死がやってくる。連休で賑わう温泉街で火事があった。5日、兵庫県の城崎温泉の旅館「千年の湯 権左衛門」で出火し、6棟が焼けた。亡くなった人がいなかったのは不幸中の幸いだが、旅行客は恐怖を体験しただろう。ネットでは毎日たくさんの死亡記事があるので、日々、死について考えさせられる。城崎温泉といえば志賀直哉の小説「城崎にて」が有名です。発表したのは大正6年だが、療養のために城崎温泉に行ったのは大正2年8月のことだそうです。直哉30歳。
冷え冷えとした夕方、寂しい秋の山峡を小さい清い流れについて行く時考えることはやはり沈んだことが多かった。寂しい考えだった。しかしそれには静かないい気持ちがある。自分はよく怪我のことを考えた。一つ間違えば、今頃は青山の土の下に仰向けになって寝ているところだったなと思う。青い冷たい堅い顔わして、顔の傷も背中の傷もその儘で。祖父や母の屍骸が傍らにある。それももうお互いになんの交渉もなく、こんなことが想い浮かぶ。
志賀直哉は没後70年が経過していないので著作権法の関係で全文掲載はできない。
「城崎にて」と似たテーマを扱った作品に「豊年虫」がある。長野県千曲市の戸倉温泉に逗留して執筆した。直哉44歳。「豊年虫」が所収した本が手元になかなか見つからなかった。中央公論社版の「日本の文学 22巻」に収録されている。志賀は長生きしたので死後70年経過するのはまだだいぶん先の話である。
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