人名エポニム研究
1895年のこの日、ドイツの物理学者レントゲンはX線を発見した。X線は体の内部の様子を撮影することができるので、発見者の名前を使って「レントゲン撮影」と呼ばれる。たとえば、パンなどに肉や野菜等の具を挟んだサンドイッチがイギリスの貴族、第4代サンドイッチ伯爵ジョン・モンタギュー(1718-1792)に由来している話は有名だが、このようにすでに存在する物の名前を使って命名された新しい物の名前をエポニムという。賭博好きのサンドイッチ伯爵はトーストにコールドビーフをはさんで、食事をしながら賭博をできるよう工夫した。これがサンドイッチの始まりである。
建築
このほか考案者の名前が命名されたものに立体パズル、ルービックキューブがある。ハンガリーの建築家エルノー・ルービックは、川の流れる様子から発明のヒントを得て作られたという。もっとも代表的な人名エポニムの一つにエッフェル塔がある。この世界一のノッポの塔を設計したアレクサンドル・エッフェルの身長は152㎝と小柄であった。
社会
競馬のダービーとは、1780年英国のダービー伯が、エプソムの競馬に多額の賞金をかけたのがはじまりという。フランスの要塞マジノ線は国防相アンドレ・マジノにちなむ。ナウマン象はハインリッヒ・ナウマンというドイツの地質学者に由来する。回転連発銃はその発明者ガトリングに由来する。女性の外部生殖器「バルトリン腺」。デンマークの解剖学者カスパール・バルトリヌス(1655-1738)に由来する人名エポニム。団結して排斥することを「ボイコット」というが、イギリスの横暴な大尉チャールズ・カニンガム・ボイコットの名前に由来している。ブーゲンビリアという花は探検家ブーガンヴィル(1729-1811)に因んでいる。19世紀のラッダイツ運動とネッド・ラッド。影絵のことを「シルエット」というが、フランスの大蔵大臣エティエンヌ・ド・シルエット(1709-1767)に由来する。彼は、倹約家で、肖像画を描かせるのに高価な絵の具は使わずに、黒一色のものにせよと主張し、輪郭だけの肖像画が流行したためシルエットの名前が使われた。
科学 ディーゼルエンジンは発明者のルドルフ・ディーゼルに因む。ハレー彗星は発見者エドモンド・ハレー、ハッブル宇宙望遠鏡は宇宙の膨張を発見したエドウィン・ハッブルに因んでいる。周波数の単位ヘルツや電気抵抗の単位オーム、温度の単位「華氏(ファーレンハイト)」、放射能の単位キュリー、放射線量の単位シーベルト、ドップラー効果、ラマン効果、モンロー効果、ゼーベック効果もみんな人名エポニム。
経済 株価指標「ダウ」チャールズ・ダウ
服飾 女学生がはくスポーツ用のブルマはアメリカの女性解放運動家アメリア・ジェンクス・ブルーマー(1818-1894)の名前に因んでいる。
音楽 ピアノの教則本バイエル。音楽家フェルディナント・バイエル。サクソフォン発明者アドルフ・サックス。
医学 X線の発見者レントゲン(1845-1923)、モールス信号のサミュエル・モールス(1791-1872)、鉛筆(コンテ)のニコラ・ジャック・コンテ、視力検査表ランドルト環のエドマンド・ランドルト(1846-1926)など。医学には人名エポニムが多い。マルピーギ小体、パーキンソン病、ハンセン病、アルツハイマー病、ベーチェット病、メニエール病、レイノー病、アスペルガー症候群、ダウン症、バセドー病、ギラン・バレー症候群、サルモネラ菌など。ドルビー・サラウンド技術開発者レイ・ドルビー(1933-2013)。ゴルジ腱器官。バビンスキー反射。
日本 川柳の柄井川柳、金時豆の坂田金時、隠元豆の隠元隆琦などが人名に由来する代表例である。ちなみに日本で溺死体のことを土佐衛門と呼んだり、馴れ合い勝負を八百長といったり、覗き魔のことを出歯亀といったりするのは、エポニムなのだろうか。ハヤシライスは丸善の創業者である早矢仕有的(はやし・ゆうてき)に由来する。歌舞伎の佐野川市松(1722-1762)は1741年「高野心中」で衣装に用いた、白と紺の袴の柄が人気をよび、「市松模様」と呼ばれるようになった。避妊法のオギノ式は産婦人科医荻野久作が考案。参考:「英語エポニム事典 人名をルーツにした英語」シリル・ビーチング著 法学書院 (11月8日)
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