NHKドラマ「アイウエオ」覚書
前にケペル先生のブログで「NHKドラマ・アイウエオは名作だ」をのせたところ二人の方からコメントをいただいた。お二人よりはケペル先生が年長なので、いろいろ覚えていることもあるが、ビデオがない時代なので正確なことはあまりわからない。しかし、いくつか明らかになった事もあるので紹介したい。
放送期間は、昭和42年1月から昭和43年3月まで、全70回。昭和42年は、明治百年ということで、記念番組が数多く企画されたが、「アイウエオ」は、教育のイロハの時代の意味であり、「教育の原点」とは何かを幕末から明治20年代頃を生きた親子二代にわたるドラマだ。そして脚本は、なんと早坂暁である。放送作家デビュー数年であり、彼の初期の作品ということになる。明治の時代考証がゆきとどいていたのは、東大教授の岡田章雄の援助があったからであろうか。70回という長期にわたる連続ドラマの終了後、第6回放送批評家賞(ギャラクシー賞)を受賞している。内容は明治の教育制度の確立過程を描くという意図であったが、事件がどんどん広がり、予定の1年を終ってもまとまらず、翌年の3月まで続いたが明治27年あたりまでを描きながら未完のまま終了したらしい。
物語の最初の頃の重蔵(木村功)の回と終わり頃の彦一郎(堀勝之祐)の回のストーリーを紹介する。
明治5年、重蔵たちの北海塾は、生徒がたった3人になってしまった。札幌にいくと金がもらえるというので、みんな村を出て行ってしまったのだ。重蔵はある日、開拓民のひとり徳次郎らとともに開拓庁に出かけ、岩村判官に会って金で人間を集める開拓使の政策は間違っていると抗議する。そのあと彦一郎(武岡淳一)は父重蔵が牢に入れられたと聞かされ、釈放を求めて判官のところへ談判しにいく。
彦一郎(堀勝之祐)は、台頭する国家主義、戦争、植民地政策のなかでしだいに悩みを深くするが、皮肉にも朝鮮の青年の憎悪の目にはげしく心をゆさぶられたあとで、台湾の教化のために赴任してくれ、と懇請を受ける。意外にも、アイヌの血をひく妻は、涙を流しながら赴任してくれという。その地ではまた、いわれのない差別がはじまり、人の心が荒んでゆくだろう。だからこそ、その人たちに、あなたが必要なのだ、と。彦一郎の妻の役には、娘時代は、上原ゆかりであるが、成人してからは役者がかわっているかもしれないが思いだせない。
長編ドラマでとても全編のストーリーは不明であるが、朝日新聞にも骨太の生真面目さで、どこにも媚のないドラマで、明治百年に最もふさわしい内容であると、好意的な記事であった。夜6時の放送の番組は、当時子供向けの時間帯だったので、小学生も見ていたのだろう。私は高校の受験を控えていたころだった。明治人の気骨が感じられ、前にも書いたが「巨人の星」とともに土曜日6時、7時は楽しみにしていた。ともに青年の人間形成を描いたドラマでいわばビルディング・ロマンスといえるであろう。ここ数年NHKBSでは韓国ドラマ「初恋」「クッキ」を放送したが、ともに人間形成ドラマといえるでろう。なお「アイウエオ」は、当時売出中の立川談志が神妙なナレーターをつとめていたという。「はちがつ」さんのご記憶で「留学中」とあるのは、おそらく彦一郎のアメリカ留学中のシーンだとおもいますが「アイウエオ」のことと思います。
こんにちは。
「アイウエオ」、私が今までで見たドラマの中での最高傑作です。
当時私は小学3年生。
この時から私にとって「もっともカッコイイ俳優」は、木村功、というか、江藤重蔵であります。
なかなか、この話が通じる人がいなくて、
ものすごく寂しい思いを抱えておりました。
NHKのアーカイブにもないし。
早坂暁コレクションにもないし。
「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」
を北海道の寺子屋で教える重蔵が、
息子の彦一郎を預けるべく東京の福沢諭吉に会いに行くところは
幼な心にも高揚を覚えました。
アイヌ民族の被差別の実態から入ったこのドラマが
「人の上に人をつくらず」の福澤のもう1つの顔、「脱亜論」よろしく
台湾での現地人暴動に遭遇して呆然と立ち尽くす
彦一郎の戸惑いで終わるのは、
本当に衝撃的でした。
これって、未完だったんですか。
私自身、小3から小5になり、
最後は土曜の6時にテレビの前にいられない週が多く、
とびとびの視聴になってしまったのが本当に悔やまれます。
投稿: gamzatti | 2008年7月19日 (土) 11時55分
「アイウエオ」を見て、以来ずっーと感動し続けて、人生の拠り所のように感じてる人がいたことに、また感動しています。「ガムザッティの感動おすそわけブログ」を読んで、ケペルは中学3年生でしたが、福沢諭吉の「学問のすすめ」(旺文社文庫)を買って読んだことを思い出しました。あれは「アイウエオ」を見た影響だったんだ。漢文調ですが結構スラスラ読めて、「学問のすすめ」も人間形成に役立ちました。
投稿: ケペル | 2008年7月19日 (土) 21時52分
中学1年位の時にアイウエオのドラマを途中からですが最終回まで見ていました、戦国時代の後から明治の初め頃まで教科書や歴史書では理解出来ない時代の社会背景と云うべき事柄が移り変る様が主人公の親子の生き方たを通して上手く描かれていたと記憶しています、俳優と云う職業の力を魅せ付けてくれた、故、木村功さんの活躍に感動していた事を思い出します。
ドラマは、未完だと書いておられましたが、私の見た最終回では、息子さんが留学先から戻り、音楽教師と成り音楽で人間教育の歴史を繋いで行くと云う形で終わったと記憶しています。
このドラマは、本当に素晴らしく、リメイクして欲しいと強く思うしだいです。
投稿: don3(どんさん) | 2012年1月10日 (火) 00時25分
最近、「アイウエオ」について調べていてここに来ました。
当時中学生でしたが、夢中になって見ていました。今考えると、「坂の上の雲」に代表される司馬史観とは違う視点で、日本の近代を問い返した傑作だと思います。
しかも、70回という大河ドラマにも匹敵する量を放映したことはほとんど奇跡でしょう。
アメリカ留学から帰った主人公が盲学校で音楽を教えるシーンや、織本順吉が寺子屋の子ども達を上野の山に戦争見学に連れて行き、子ども達が口々に「戦を止めろ!」と叫ぶシーンなど忘れられません。教育・差別・戦争・・・今でも、いや今でこそ私たちが向き合わなければならないテーマが、児童ドラマとして作られたことは、驚嘆に値します。
早坂暁にはこの後「天下御免」という平賀源内を主人公にした大傑作があります。
どちらも、もう一度見たい作品ですね。
投稿: 虎児 | 2012年8月16日 (木) 13時10分
おたよりありがとうございます。虎児さんのシーンで思い出が少し甦りました。いまCSで放送している「天皇の世紀」13話を見ました。脚本が早坂暁、新藤兼人で木村功が川路聖謨。日本の近代化の過程を骨太に描いて歴史好きには感動ものです。
投稿: ケペル | 2012年8月16日 (木) 16時16分
初めめまして。メンテナンスとやらでコメント投稿が出来ずにいました。
織本順吉さんの訃報を知り、以前から探していた織本出演されていたドラマを探てここにたどり着きました。
昭和42年・43年(私は小学校低学年)のNHK ドラマで、北海道やアイヌの話、木村功さんや池田秀一さん(ルーツのクンタキンテの声)が出演されていた、のは記憶していました。
厳しい環境下の社会派ドラマだったと記憶していますが詳細は覚えておらず、出来る事なればもう一度見たいドラマです。
長年探しましたが見付からず、悶々としていましたがブログ記事にしていただいていたお陰でスッキリしました。有り難うございました。
投稿: ねこ | 2019年3月29日 (金) 21時18分
なんとなく思い出して、検索してたどり着きました。私が9歳のときのドラマです。
木村功の禄高が500石だったこと、木村功は雪の中で死んだこと、白墨が貴重品だったこと、そして算数の足し算がハラス算(プラス算)だったこと、
彦一郎の奥さんとなったアイヌの娘は川上に住んでいるので、木村功が「川上」という苗字をつけたこと。
いろんなことを思い出しました。音楽取締掛の井沢修二のこと。明治政府は殖産興業だけでなく音楽や美術の導入にも努力したんですね。 興銀なき令和の時代、「興行」といえば吉本ですが。
投稿: 水の月 | 2023年3月 7日 (火) 18時35分