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2024年2月28日 (水)

あめゆきさんの歌・山田わか

Photo_2     婦人問題評論家・朝日新聞女性相談欄の担当などで知られた山田わか(1879-1957)は、明治12年12月1日、神奈川県三浦郡久里浜村の貧農、浅葉弥平治とミヱの三男五女の8人兄弟の4番目・三女として生まれた。明治23年久里浜尋常小学校を卒業し、17歳の時、同郡横須賀町小川の荒木七治良と結婚するが離婚。生家の苦境を支える兄を助けようと上京するが、途中、横浜で女衒に騙されてアメリカ、シアトルに売り飛ばされる。アラビアお八重の名で明治38年、26歳まで「あめゆきさん」となっていた。

 

    しかし、「新世界新聞」の記者であった立井信三郎に助けられて娼館を脱出し、サンフランシスコの手芸教室に逃げる。この手芸教室は性の奴隷から救出された日本人女性の自立のために坂部多三郎が開いていたところだった。坂部はキリスト教徒長老派教会娼婦救済施設キャメロンハウスに浅葉わかを匿った。坂部は、わかを追いかけてきたが、立井は引き渡さなかった。わかの裏切りを知った立井は坂部の目の前で服毒自殺をする。

 

   傷心のわかはキリスト教に入信する。山田英学塾に入り、塾長で社会学者の山田嘉吉に出会う。やがて二人は結婚し、サンフランシスコで永住しようと誓う。ところがサンフランシスコ大地震が1905年4月18日、二人を襲った。家と蔵書をすべて失った二人は、帰国を決意する。山田嘉吉41歳、わか27歳であった。

 

   帰国後、嘉吉は東京四谷に外国語を教える私塾を開く。社会主義者や婦人運動家が集まった。わかはエレン・ケイ(1849-1926)の母性尊重主義を紹介し、大正期の婦人解放思想に大きな影響を与えた。大正8年「女、人、母」(森江書店)、大正9年「恋愛の社会的意義」(東洋出版社)「愛と生活と」(三徳社)「社会に額づく女」(耕文社)、大正11年「家庭の社会的意義」、昭和3年「現代婦人の思想とその生活」(文教書院)、昭和7年「新輯女性読本」(文録社)と精力的に刊行した。こうした努力が結実して、昭和12年には母子保護法が成立した。

 

    小学校しか出ていない娼婦が、帰国後、婦人解放運動や社会事業家になるという驚くべき人生であるが、もちろん夫の山田嘉吉の影響が大きいであろう。山田嘉吉(1865-1934)は、明治18年に渡米。皿洗い、農夫、土工、船員、コックなどしながら、勉学に励んだ。わかは嘉吉と結婚したとき「3000冊以上の洋書があった」と回想している。四谷の自宅の地下書庫は書物であふれ、いつも丸善への書籍代の支払いに追われた。山田は語学の天才でほとんどの外国語に通じ、哲学、医学、社会事業にも造詣が深く、すべて書物のみの独学であったらしい。大杉栄も塾生としてフランス語を山田から学んだといわれる。 (参考:山崎朋子「あめゆきさんの歌」)

 

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日本史」カテゴリの記事

コメント

工藤美代子さんの「カナダ遊技楼に降る雪は」を古本屋で買い求め、偶然「あめゆきさん」にたどりつき、夢中で読んでいます。実はカナダにここ数年、滞在する機会があり、私も勉強不足を痛感しており、山田わか女史の人生にふれ、感慨を受けております。出会えたのも、偶然ではない気がしています。特に、嘉吉先生の薫陶には、涙を禁じ得ません。お二人は世に傑出した人物であろうと思います。これからも、機会があれば、是非ご紹介下さい。

人の世には、誰もが知るような名を残さずとも、偉業を成す傑出した人物が数多く居るのですね。逆境にありながら。

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サンフランシスコの南、コルマという場所に「あめゆきさんの歌」に出てくる山田わかさんと思われる人が、
《立井信三郎》のお墓を建てられている場所があります。
北加日本人墓地という名前で慈恵会というNPOが管理しています。
墓碑には「明治4年3月2日生/36年12月15日逝
浅葉ワカ建之」とあり、」と記されています。山崎朋子さんも訪れておられると思われます。

山田わかに関する記事校正について
修正:下から2行目、浅葉わか建之」以下の”とあり”、」を削除してください。墓碑の写真が入らないようで済みません。’

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