鉄道会社は「鉄」という漢字を嫌う
ネプリーグの漢字問題で吉岡里帆や井浦新が「率直」を「卒直」と書いて間違えた。しかし広辞苑などを引くと「率直」の項には「卒直ともいう」とあり、「卒直でも可」と容認する意見も一部にはある。「率」には、こだわらない、素直なという意味があるが、「卒」にはこうした意味がないことから「卒直」が国語的には不正解である。だが「卒」のほうが「率」よりも字画が少なく書きやすいことや、むかしから誤字が多くて、まあ大目に見ようというものらしい。もちろん書き取りテストでは「卒直」は×である。むかしTBSの「アッコにおまかせ」峰竜太のコーナーで「変なレコード・ジャケット」を紹介していた。古いレコードには様々な思いでがあって懐かしいものだが、ここでは基本的には大阪弁でいう「オチョクリ」が基本テイストだ。ある日、紹介された曲が大木伸夫の「鉃路の男」。浪曲師出身の有名な歌手だったが、そのころ既に過去の人として忘れられていた。ジャケットの文字「鉃」の字が間違っているというのである。たしかに「鉄」の字は「金」へんに「失」が正しい。学校の先生ならば、×をつけるだろう。なぜわざと「鉃」の字を使ったのか鉄道関係者ならわかっている。むかしから、鉄道の世界では「金」が「失う」では縁起がわるい、それと「矢」であれば、「目的地に向かって直線に飛ぶ」という理由で、わざと「鉃」の字を書くことがある。東日本旅客鉄道のロゴマークは「金」へんに「矢」となっている。
国鉄赤字の分割・民営化のとき、鉄道会社のデザインの文字に「鉃」の字が使われた。これに対して、朝日新聞の投書で「小学五年の長女から「どうして変えるの」と聞かれて困まりました。国鉄が「字体の縁起が悪い」のを理由に変える前例となれば、ほかの鉄道会社などもまねするかもしれないし、漢字の乱用にもつながります。大人たちが自分の都合で変えるのは、子どもの教育にもよくありません。」(「金より良識失う」)として反対の声が上がった。国鉄は「鉃の字は常用漢字にはないが、「難字大鑑」(柏書房)には俗字として載っており、旧字体からみれば鉄も俗字で、決して誤字ではありません」と強弁した。これに対して漢字学者からは、「鐡」の略字に「鉄」があてられたのは「秩」「跌」「迭」など「-ツ」とういう音がすべて「失」にもとづいているからである。「鉃」という字では「テツ」という音は出てこない。縁起をかついだだけの「ウソ字」「誤字」であるとされた。ポスターやデザインで使うだけならそれほど問題はないと思うのだが、この「鉃の字」問題はヒステリックな状況の中で忘れ去られていった。もちろん法務局の通達などで「戸籍の氏名欄に記載されている誤字・俗字の一覧表」にあるので、いつでも改正が認められる。またJIS第二水準の漢字にもあるので、このように表記できる。日本独自の伝統としてはかすかに残っているのである。JRではいまでも正式名称として「東日本旅客鉃道株式会社」というように、よく見ると「鉃」の字の右側は「「失」ではなく「矢」となっている。
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