宰相の渾名
夏目漱石は渾名の命名にかけては名人級だろう。「赤シャツ」「野だいこ」「うらなり」「山嵐」「マドンナ」いずれも個人の容貌、性質、言動などの特徴をとらえて、いまも生きているような清々とした感がある。もし漱石が生きていれば当世政治家はどんな渾名が付けられるだろうか。野田佳彦は自らの渾名を「どじょう」と称して庶民ぶりをアピールしているが、明治の頃は「どじょう」は下級官吏のことだった。菅直人は気むずかしい性格からマスコミから付けられた渾名が「イラ菅」。鳩山由紀夫には「宇宙人」「ルーピー鳩山」という嘲笑風の渾名がある。ルーピー(loopy)とは、耳慣れない単語だ。「愚か者」という意だそうだが、学習用の辞書には見えない場合も多い。ウェブスターには「a slightly crazy」とある。ほんとうかどうかわからないが、loopは「輪」なので、「くるくる回る」、つまり「くるくるパー」だという説明をしている記事が見える。foolish、stupid、crazy、loopy、英語の使い分けは難しい。使わないほうがよさそうだ。
一国の宰相はもっとも愛称がつけられやすい。ビスマルクは「鉄血宰相」、サッチャーは「Iron Lady(鉄の女)」。わが国では、円満な容貌と楽観的性格から高橋是清は「だるま」、人情味あふれる正義感から濱口雄幸は「ライオン宰相」、グロテスクなビリケンのような禿頭から寺内正毅は「ビリケン宰相」と呼ばれた。吉田茂は「ワンマン」。田中角栄は「コンピューター付ブルドーザー」。福田赳夫は「昭和黄門」。中曽根康弘は「風見鶏」。小渕恵三は「冷めたピザ」。そして支持率が低迷する岸田文雄に「増税メガネ」という悪いあだ名が流行している。
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