字形類似の漢字と誤字の話
「焉馬(えんば)の誤り」という言葉がある。漢字には多くの種類があり、字形がよく似ている字がある。「焉」と「馬」とは字形が似ていて間違いやすいことから文字の誤りのことを意味する。箱根駅伝のテレビ中継のテロップ。「たすき」を「欅」と誤って表示。「襷(たすき)」と「欅(けやき)」の漢字はつくりが同じで間違いやすい。共通入試テストで「科挙」を「科拳」と誤字。「勾配」を「匂配」と誤字。NHKニュース「おはよう日本」のテロップ。コロナ禍をコロナ渦と表示。「禍」を「渦」と誤る。
林修先生がNHKで「雹(ひょう)」という漢字を間違える。「雨」かんむりの下の字が「包」となっていた。「包」と「苞」は似ている。「同胞」と「雹」も要注意!「包」「泡」「飽」「港」は「己」、「雹」「鮑」「鞄」は「巳」。天皇皇后両陛下に対する「国民代表の辞」を読み上げる際、安倍首相は「願って已みません」が読めなかった。痛恨の極みである。
巳 シ み
已 イ すでに・やむ
己 キ・コ おのれ
これらの文字は、とくに蛇と糸すじの象形で字形が似ているので紛れやすい。「土」と「士」、「未」と「末」、一画の長さでまったく異なった意味の文字になる。むかし新聞などで「天皇陛下」を「天皇陸下」を誤字したことがあった。
とかく漢字には紛らわしいものが多い。「微」と「徴」。「門」と「問」。「紛失」の「紛」と「粉」。「牛」と「午」。「宣」と「宜」。「壁」と「璧」。「樋」と「桶」。「冒」と「昌」。「欧」と「殴」。「萩」と「荻」。「刺(し、名刺)」と「剌(らつ、溌剌)」。「貪」と「貧」も似ているが、「貧」は、分+貝、貧しいという意味。「貪」は、今+貝、むさぼるという意味で、まったくの別字である。「弊」と「幣」。「弊」は、破れてボロボロになる、つかれる。「弊害」。一方、「幣」は神に供える絹、客への贈り物、宝物、おかねといった尊いものを表す字。「貨幣」。「冷」と「泠」 にすいとさんずい。
杮落しの「杮」と「柿」。崇徳天皇の「崇」と「祟(たたり)」。[鳥(とり)」と烏(からす)」。「己(き)」と「已(やむ)」「巳(み)」、「戊(ぼ)」「戌(いぬ)」「伐(ばつ)」「戍(じゅ)」「戎(えびす)」「戉(まさかり)」が紛らわしい。紛らわしい漢字の覚え方として、「瓜にツメあり、爪にツメなし。牛にツノあり、午にツノなし」という歌がある。
「僕」「撲」「樸」も紛らわしい漢字の1つ。これらはみな「ボク」と読む同音異字。僕は「しもべ」という意味で熟語には「家僕」がある。撲は「うつ」という意味で熟語は「撲滅」がある。樸は「切り出したままの材木」という意味で「朴」と同じで「樸訥」(飾り気がなく、口べた)という熟語がある。
「嬴」「贏」「蠃」「羸」「臝」という漢字もある。「嬴(エイ)」は秦の姓。「贏(エイ)」は儲ける、勝つの意味。「蠃」は螺(ラ)の本字。「羸(ルイ)」は痩せるの意味。「臝(ラ)」は虎、豹のたぐい。このほかに、「驘」は騾の異体字もある。
儒家の「荀子」と「筍(たけのこ)」。「壁ドン」と「完璧」。
「莽」と「葬」。莽の字義は「犬が隠れるほどの草むら」で「犬」の字が使われるが、「葬式」などで使われる字は「死」である。
「綱」と「網」。両国国技館の住所は「横綱」ではなく「横網(よこあみ)」にあります。「綱」と「網」は字形が似ているため、間違えやすい。
「甲冑」の「冑」と「胄裔(ちゅうえい)」(子孫)の「胄」も大変紛らわしい。「かぶと」の意の「冑」は、下の二が冂につかないが、血筋の意の意の「胄」は両側の線にくっついている。つまり、下は「にくづき」の月である。ついでに言うと、「胃(い)」は、下は血筋の「胄」と同じだが、上の中棒が突き出ていない。
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