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2023年4月 9日 (日)

繃帯を巻いたアポリネール

 大江健三郎の「個人的な体験」を読んでいると、「おれの息子は戦場で負傷したアポリネールのように頭に繃帯をまいていると鳥(バード)は考えた。おれの見知らぬ暗くて孤独な戦場でおれの息子は頭に負傷したのだ。そしてアポリネールのように繃帯をまいて声のない叫び声をあげている・・・唐突に鳥は涙を流しはじめた。アポリネールのように頭に繃帯をまいて、というイメージが鳥の感情を一挙に単純化し方向づけていた。鳥はセンチメンタルでぐにゃぐにゃの自分が許容されて正当化されるのを感じ、自分の涙に甘い味すら見出した。おれの息子はアポリネールのように頭に繃帯をまいてやってきた。おれの見知らぬ暗くて孤独な戦場で負傷して、おれの息子を戦死者のように理解してやらねばならない。鳥は涙を流しつづけた。」

 アポリネールとはフランスの詩人である。わずか数行の文章に4回もアポリネールの名前がでてくる。1916年に第一次世界大戦に兵役志願したアポリネールは最前線で流れ弾を受け、負傷して東部を繃帯に巻いた写真がよくみることがある。フランス文学専攻の大江にとってはかなり印象的な写真なのであろうか。

 

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