土田耕平「大寒小寒」
「おおさむ こさむ 山から こぞうが とんでくる…」冬のさむい晩、三郎はおばあさんとこたつにあたっていた。大寒小寒の歌は、こんなさむい晩に、おばあさんが口くせのようにうたう歌だ。 「おばあさん。こぞうが、なぜ山からとんでくるの?」と三郎がきくと、おばあさんは、「山は、さむうなっても、こたつもなければお家もない。それでとんでくるのだろうよ」という。また三郎が「こぞうって、お寺のこぞうかい?」「山のこぞうは、木のまたから生れたから、ひとりぼっちだよ」「おばあさんもないの?」「ああ、ないよ」「それで、着物は着ているかい?」「おおかた、木の葉の着物だろうよ」 三郎には、頭を青くそりこくった赤はだしの山こぞうが、目に見えるように思われた。おおきくなって、三郎は東京で暮らすようになったが、毎年冬になると、大寒小寒の歌を思いだし、おばあさんを思いだすのであった。(土田耕平「大寒小寒」)。
本日は一年中で、最も寒い日と言われる「大寒」。大寒の句でよく知られるのは、「大寒の埃の如く死ぬる」(高浜虚子)、「大寒や転びて諸手つく悲しさ」(西東三鬼)あたりだろうか。
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