地味にスゴイ、室生犀星
鯛の骨たたみにひらふ夜寒かな
室生犀星、大正13年に詠んだ一句。6年ほど前に「蜜のあはれ」が映画化された。二階堂ふみが金魚の役で、老作家が大杉漣、かなりシュールな映画で低評価だったように思うが、晩年の室生犀星の作品であることに驚きを覚えた。犀星は多作の人である。20代後半で詩人として名を成し、俳句でも成功し、当然のことながら出版社から原稿の依頼は殺到し、生涯それに応え続けた。多作・乱作ながら名作も数多く残している。長い文学活動で晩年まで瑞々しく、新鮮であった。「蜜のあはれ」「杏っ子」、「かげろふの日記遺文」など。クリアカラー「国語便覧」(数研出版)を見ると「ふるさとは遠きにありて思うもの」の感情詩派としての犀星の解説しかないが、昭和期の中心的な位置にいた小説家だと思う。でも文化勲章は受賞していない。志賀直哉や太宰治などが高く評価されがちであるが、戦後の志賀直哉は寡作であり、スランプ気味だった。芥川や太宰ははやくに自滅し、文学活動をマラソンに例えるならば、無事ゴールに完走したのは谷崎潤一郎と川端康成、そして室生犀星であった。室生犀星は地味にスゴイ作家である。
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