司馬遷の人間学
前漢の司馬遷が著した『史記』。伝説時代の黄帝から前漢の武帝までの歴史を本紀・表・書・世家・列伝に区別して記述する列伝体がとられている。「四面楚歌」「臥薪嘗胆」「完璧」や「雌雄を決す」「先んずれば人を制す」「智者も千慮に必ず一失有り」など、今日の我々が普段使っている言葉も史記がその由来である。史記130巻には伯夷・叔斉・管仲・伍子胥・蘇秦・張儀・荊軻・商鞅・呂不韋・項羽・韓信などさまざな人物が登場するが、人間こそ歴史をつくる主体という確信にたっていたことがうかがわれる。しかし司馬遷は英雄・豪傑・ヒーローだけが歴史をつくるという一面的な見方をしていたわけではない。むしろ、本来能力を問題するにかぎり、どのような能力も、人間は本質的には同じという考えを持っていた。列伝の中にこのような面白い話しがある。斉の孟嘗君が秦に幽閉されたとき、食客のこそどろや、にわとりの物まねのうまい者に助けられて脱出したという「鶏鳴狗盗」の出典となる件がある。司馬遷は物まねが得意の小技をする人もくだらない技能を持つ人も、遊侠も、おべっかも、あくどい金儲けも、一種の能力であるとして、遊侠列伝や貨殖列伝などをつくっている。『史記』は単なる英雄たちの物語ではなく、郭解・淳于髠・郭舎人など複雑な社会を構成するいろいろなタイプの人間を観察していたのである。
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