参院選が終わって
参院選は自民党が大勝した。だが岸田首相に笑顔はなかった。選挙期間中、安倍元首相が襲撃され死亡するという前代未聞の衝撃的な事件があったからだ。新聞などメディアは一様に「民主主義への挑戦」と論じた。各党も対立を超えて「民主主義への重大な挑戦」「卑劣な蛮行」「言論の封殺」と怒りの声が相次いだ。わたしは民主主義を金科玉条、絶対正義とする固定した言い回しに違和感を抱いている。犯人の証言からは政治的なテロ行為ではなく、社会に対する抑えがたい不満を安倍氏個人に向けたように思える。2006年から2度首相を務めた安倍氏は犯人の世代にとって日本社会の頂点に君臨する人物である。犯行動機が一部報道で特定宗教への恨みからとあるが、もつと社会全般への恨みもあったと思われる。メディアが、一様に「民主主義への暴挙」と論ずるにとどまり、どうしよぅもないレベルでのおよび腰である。本質はイデオロギー的な事でなく、身近な社会、生活に根ざした不満ではないか。犯人の41歳という世代はいわゆる「就職氷河期」である。バブル経済崩壊後の不況の中で彼がどのように生きたのか詳細には知らない。学校を出た後、終活に失敗し、海上自衛隊に入隊、3年間で退所したのち、バイトや派遣社員として、世の中を恨んでひっそりと生きてきたのだろう。彼の眼にうっった安倍晋三はいつも日本社会の中心に輝いて位置していただろう。今回の選挙の争点はコロナ対策、景気・経済対策、憲法対策、消費税、環境・エネルギー問題などいろいろあげられたが、35歳から50歳前後の者たちの不満の底流にあるのは格差の拡大と貧困の問題である。こうした現状を生んだ背景には、高額所得者や大企業に向いた政治を続けてきた保守政党にあることは言うまでもない。そして野党も名ばかりで実質は資本主義やマクロ経済を推進し、貧困層切り捨ての政策をしている。犯人の凶行は、偶然と必然とが重なり合って、本人が思い描いたよりももっと大きく戦後日本の闇をさらけ出してくれた。
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