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2021年10月 7日 (木)

タイの葬式本「ナングスー・チェーク」

Photo_5    タイでは葬式の際に、葬式頒布本(略して葬式本)と呼ばれる本や小冊子が関係者に配られる慣習がある。世界でも珍しいこの風習は、現在、華僑のいる東南アジア全域に広まっている。起源は1870年代に国王文書局が、王族や貴族が亡くなった際に遺族から資金提供を受けて文書や法令を編纂し始めたことに始まる。やがて、王族や貴族だけでなく、官庁の一般官吏や中国人商人の間にもこの慣習が広がっていき、物故者の経歴や家族の歴史、携わった仕事や関連する産業の歴史などが本に書かれるようになった。

 

180pxmom_sangwal_and_m_c__ananda_ma      タイの葬式は盛大で、クライマックスとなる火葬の際に、参列者に引き出物として配布される。1996年に葬儀が行われたラーマ9世(プミポン・アドゥンヤデート)の生母シーナカリ王太后(画像、1900-1995)の葬式では、大小取り混ぜて18冊も配布されている。この度のプミポン国王の場合、何冊書かれるが予測もつかない。
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Image   日本国内でタイの葬式本を約4000冊以上、所蔵している図書館がある。タイの国務省職員で、タイの葬式本の収集家として知られたチャラット・ピクンの旧蔵書約9000冊(洋書、タイ語)のチャラット・コレクションが京都大学東南アジア研究所図書室にある。このうち約4000冊がタイの葬式本であり、同種のコレクションとしてはタイを除いて世界最大のものである。本コレクションは、チャラット・ピクン氏が亡くなったあと、彼の知人で当時京都大学東南アジアセンター所長であった石井米雄(1929-2010)が購入し、同センターの所蔵としてものである。目録として「Catalog of Thai cremation volumes in the Charas Collection」マラシュリー・シヴァラクス編、1989年)が刊行されている。タイの葬式本は文書局の校閲を受けた歴史文書や法令書としての価値があり、また一方で社会経済史の貴重な資料である。

   余談ながら、「葬式」はタイ語で「ンガーンソッブ」Ngarn-sob、「仏教」は「プラブッダサーサナーア」Pra-put-sassanaという。「葬式頒布本」のことはタイ語で「ナングスー・チェーク。英語ではcremation volumeという訳語が与えられている。

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わが国では一周忌に故人を記念して作る追悼文集のことを「饅頭本」という。

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