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2020年4月19日 (日)

ほどよく本がなんでも揃っている私設図書館

富士の山ほど願って蟻塚ほど叶う

 中山美穂主演の恋愛映画「蝶の眠り」を見ていると、物語の後半で、「偶然の図書館」として生まれ変わる家庭文庫が登場する。本の色によって配列した書棚の美しさを魅せる趣向である。

 大きい願いをもっても、実際にかなうのはきわめて僅かなものである。この諺は江戸中期あたりからあったらしい。若い頃は理想の図書館とは広大で世界一の蔵書を誇る図書館だと信じて疑わなかった。しかしインターネットの時代を迎えて、必要な資料の多くがデジタル化されると、必ずしも大部な本を集積することは意味が無くなった。本でなくては味わえない資料をコレクションすること、いつでも手近かにあって読みたいときに読める、というほど良い冊数の本が理想の図書館の一要件となっている。いまアメリカでは郵便ポストのような小さな本棚を庭先につくり、地域の人たちに無料貸出するリトル・フリー・ライブラリーが流行している。つまり図書館は規模の大小ではなく、収集家が長い年月をかけて愛情をもって精選されたコレクションであればどんな図書館も選ばれる資格があるといっていい。小さな図書館がいいということは図書館だけにあてはることではない。「大きいことはいいことだ」というのはむしろ大きな間違いである。戦艦大和や武蔵は無用の長物だった。高層マンションや大型ショッピングモール、大型客船、巨大スタジアム、マンモス大学、すべてウイルスの前に無力化している。

 

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  NHKで放送されたドキュメント72時間「静かすぎる図書館」は京都吉田山にある私設図書館。12時から深夜0時まで開館している。ここにさまざまな人が集う。東洋医学を学ぶカナダ人。麻雀で遊び過ぎて留年した大学生。オラウータンを研究している院生。インパールに応召した父を偲んでビルマ語を学ぶ中年男性。新聞配達しながら数学教師をめざす人。不登校の体験をもつ女性。孤独のようにみえて孤独じゃない、どこか連帯感があって、居心地のよい空間なのだ。来館者はもっぱら図書館の本を使わずに閲覧席と閲覧机を利用することを目的として「持ち込み勉強=図書館」であるが、たくさんの本がかもしだす知的空間に惹かれてやってくる。

 私設図書館には、京都のような自習型の図書館もあるが、正統派は東京の大宅壮一文庫のような一級資料を揃えた調査型図書館だろう。このような専門的な図書館を形成するためには長い年月と経費がかかる。比較的日常生活に本当必要な本がコンパクトに揃っていて、新しい発見もあるような、コンビニ型のオールラウンド私設図書館がないだろうか。

   「図書館は成長する有機体である」という有名な言葉があり、たえず更新していなければ、それは死んだ書庫、あるいは本の保管庫にすぎない。段ボール箱に何万個本を詰め込んで持っていようと、それは所蔵しているとはいえない。書斎と図書館との違いは、蔵書数の違いではなく、地域に公開されているか否かではないだろうか。図書館と文庫の違いはあまり問題ではない。子ども文庫であろうが、大人向けの本があろうが、みな図書館である。理想の図書館とは、ひとそれぞれに考えは異なるであろうが、私は「たえず変化し、成長している図書館」と考える。資料的に新しくとも、すぐに色褪せ新鮮度は失われる。ジャンルが決まっていれば、その分野に興味のない人にとっては単なる紙の束にすぎない。万人が興味をいだき、手にとってみたくなる蔵書構成。そして自宅のリビングのようにくつろげる空間、無機質な近代的図書館ではなく、書斎のようでありながら、読みたい本がたくさんある。そんな理想の図書館を一生追求していきたい。

   街角の本屋、オフィスの書棚、自宅の本棚、古本屋、地域文庫、さまざまな本のある空間を画像で見ていると、ちょっとした工夫でよくなるヒントが見つかる。

 

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