米英優位思想と日本人
英語が広く世界中で使われている言語であることは誰しも認めるところである。英語を第一言語(母語)として使う人がおよそ3億7500万人、第二言語(共通語)として使う人がおよそ3億7500万人。さらに、英語を外国語として学びかつ使っている人が7億5000万人で、これらを合わせると世界の英語人口は15億人を超えるであろう。インターネットの普及はさらに英語情報の普及を拡大している。だが英語を本当に「グローバル言語」として無抵抗に認めていいのだろうか?
わが国では、明治以来、「英語信仰」「英語中心主義」があった。文明開化は国是であり、進んだ欧米の文化を移入し、近代化することは必須であった。明治5年、岩倉使節は米国の次に訪れた英国の先進性に大きな衝撃を受け、近代日本のお手本はイギリスになった。この傾向は戦後は米国に代わったが、英語熱は日本人にさらに加速されていく。トニー谷のような気障な英語をペラペラ話すタレントが人気者となる。親たちは競って子供を幼児期から英会話教室に通わせた。最近、ある企業は英語を社内公用語とすると宣言した。またある総理は所信演説で意味不明のカタカナ英語を羅列した。次の総理は漢字を変な読み方をして知性を疑われた。次の総理は宇宙語といわれたが、結局、人の心をうごかすことはできなかった。コミュニケーションは大事だ。しかし、今もとめられている能力は外国語を話すよりも、日本語を正しく話し、伝える当たり前の能力であろう。
世界史的な流れで考えてみよう。英語が世界の中で優位になったのは、この2世紀のことである。ビジネスの世界では産業革命により、「世界の工場」といわれたことが大きい。フランスのナポレオンがイギリス経済に打撃を与えるために大陸封鎖令を布いたことが、かえって大陸諸国の反抗を招いて、滅亡を早めた。つまりもしもナポレオンがトラファルガーでイギリスを破っていたら、フランス語がグローバル言語になっていたかもしれない。いまでもフランス人の大方は英語が嫌いだという。フランスでは自国語を守るために、1994年にフランス語使用法(トゥーボン法)を制定している。公文書や国際会議でフランス語の使用を義務づけ、テレビやラジオでの外国語の濫用を防ぐための法律である。また世界史的に、生きながらえた民族は漢民族、朝鮮族、日本民族である。たとえばピラミッドを築いた古代エジプト民族や旧約聖書のユダヤ民族が現在のイスラエル人のご先祖とは思えない。なぜ漢民族らは激動の歴史の中で生きながらえたのか。民族としてのアイデンティティーを維持できたのは、異民族の侵入にあっても、儒教、仏教、道教、民間信仰、などはもちろん、詩文、絵画、書などを重んじる文化的伝統性を継承したからであろう。自国の言語を捨てた民族は滅ぶことを歴史が証明している。
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