デコちゃんに恋した男たち
本日は広辞苑の編纂者、新村出の誕生日。新村は明治9年山口県令を務めていた関口隆吉の次男として生まれた。当時人気女優だった高峰秀子は「細雪」に出演した関係で谷崎潤一郎とは家族ぐるみで交流があった。その谷崎に連れられて、高峰は新村出の京都の家を訪問した。玄関を入ると「私の等身大よりもっと大きなナショナル色つきポスターがビロンと下がっていた」のに驚いたという。新村は森鴎外「雁」が東大付近が写るというので、生まれて初めて映画を見て、お玉に惚れたのだろう。家中が高峰グッズで一杯になった。
真面目な学者の新村だけではなく、政界・財界にも高峰ファンは多いと聞く。かつて司馬遼太郎が高峰と対談したとき「どういう教育をすれば、高峰秀子さんのような人間ができるのかなぁ・・・」と言ったそうだ。だが大人となって才気や知性を備えた高峰ではなく、まだ少女の頃の高峰を養女にほしがり2年にわたり養父となって歌とピアノを教えた東海林太郎もいる。梅原龍三郎は高峰秀子の肖像画を何枚も描いている。文人では、川口松太郎、志賀直哉、谷崎潤一郎、太宰治、井伏鱒二。なんと太宰と志賀は不仲は周知のとおりだがデコちゃん贔屓では一致している。今日出海、池島信平、大宅壮一、山田風太郎、扇谷正造、宮城道雄。映画界では、黒澤明、木下恵介、市川崑、小津安二郎、成瀬巳喜男など当然ながらも多数いる。
最近、終戦後すぐの新東宝時代の作品「花ひらく真知子より」「三百六十五夜」を見た。曽根真知子、小牧蘭子の役だが、戦後の暗い世相でも秀子の顔をみれば元気がでた男性も多かっただろう。「三百六十五夜」は主題歌「緑の風におくれ毛が やさしく揺れる恋の夜」(霧島昇・松原操)という大ヒットメロドラマ。主演は上原謙と山根寿子だが、上原を追いかける大阪のお金持ちの娘・蘭子はおきゃんな恋敵役なのだが、見ている男はデコちゃんの美しさ、可愛さに惹かれてしまい、ヒロインの山根寿子には古風すぎて新鮮味が感じられない。当時はまだ和服の似合う女性、とデコちゃんのような新しい女性の二派に分かれていたのだろうが。やっぱり若い監督の市川崑も主役でない高峰に惹かれたのであろう。のちに東映がリメイクしたが、小牧蘭子の役を美空ひばりが演じているのは、多くの新東宝版を見た人が助演の高峰秀子の印象が強かったからに他ならないと思う。(10月4日)
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