将来の世界がどう推移するか、を予想する前に20世紀がどんな世紀であったかをとらえることが必要である。1999年の末ころ読売新聞社の企画で20世紀がどんな時代だったのかをテーマにして6人の識者が240人の人物を選んだ。「芸術と大衆文化(俵万智選)」「政治(中曽根康弘選)」「人文・社会科学(山内昌之選)」「自然科学(江崎玲於奈選)」「ビジネス(平岩外四選)」「スポーツと英雄(岡野俊一郎選)」。歌人の俵万智が選んだ「芸術と大衆文化」がやや個人的嗜好が強い。というよりも俵万智の選者としての感性がわからない。「アンネの日記」で知られるアンネ・フランクだが、魯迅やトーマス・マン、サマーセット・モーム、D・H・ロレンス、ジェームズ・ジョイス、ギュンター・グラスら偉大な作家を選外とするのは酷い。ボブ・ディランも20世紀の詩人といえる。クラシック界ではフルトベングラーやカラヤンを選外にしてレナード・バーンスタインを評価したのも何か意図があるのだろうか。文学では寺山修司を入れて、川端康成、永井荷風、芥川龍之介、太宰治を選外としたのは不可解。美術界ではモディリアニ、ユトリロ、藤田嗣治などエコール・ド・パリの画家たちは無視か。バルテュスという巨匠もいる。映画界も選出法はバラツキがある。女優マリリン・モンローを評価しているが、代表作や俳優としての実績としては今一つしっくりこない。映画女優であればグレタ・ガルボかディートリッヒが妥当。舞台を含む演劇俳優であればローレンス・オリヴィエが妥当ではないか。音楽界は分野において主役が生まれる。クラシック音楽ではショスタコーヴィチが選外なのも不可解。オペラ歌手ではルチアーナ・パバロッティ、マリア・カラス、ポピュラー音楽ではフランク・シナトラやジュディー・ガーランド、フレッド・アステアなどの人気のエンターテイナーは外せない。20世紀の音楽はジャズの時代でもあるが、デューク・エリントン、ルイ・アームストロング、チャーリー・パーカーも選びたい。「キング・オブ・ポップス」のマイケル・ジャクソンは20世紀が活躍期だった。建築関係ではフランク・ロイド・ライトが世界的な影響を与え著名である。
そもそも主役という概念があいまいで「20世紀の有名人」とすべきだった。欠点として史観が欧米偏重でロシア・中国に無関心。20世紀でもかなり後半に重点がおかれ、若者目線に終始している。20世紀の特徴として、地球全体の大衆社会化したことがあげられるが、大衆が主役である時代にわずか十数人をあげることは無意味な作である。
俵万智が選んだ「20世紀の主役」40人
文学関係…カフカ、サンテグジュペリ、タゴール、チェーホフ、マルグリット・グラス、寺山修司、アンネ・フランク、マルセル・プルースト、サミュエル・ベケット、ヘミングウェー、ジャン・コクトー、三島由紀夫、谷崎潤一郎(落選…ジェームズ・ジョイス、トーマス・マン、ロレンス、ソルジェニーツィン、アルベルト・モラヴィア、ガルシア・マルケス、老舎、趙樹理、芥川龍之介、川端康成、太宰治、林芙美子など。エンタテインメント系ではミステリー作家のアガサ・クリスティ)
美術関係・・・アンディ・ウォホール、クリスト、ジャスパー・ジョーンズ、ピカソ、ブランクーシ、ポロック、マティス、ミロ、モンドリアン(落選…ダリ、シャガール、ムンク、ルオー、マリー・ローランサン、モディリアニ、ユトリロ、カンディンスキー、横山大観など)
音楽関係…エリック・サティ、ストラビンスキー、武満徹、レナード・バーンスタイン、エディット・ピアフ、ビートルズ、アンドリュー・ロイド・ウェーバー(落選…フルトヴェングラー、カラヤン、ショスタコーヴィチ、マリア・カラス、パバロッティ、エンリコ・カルーソー、モーリス・シュヴァリエ、シナトラ、エルヴィス、マイケル・ジャクソンなど)
映画関係…エイゼンシュテイン、黒沢明、スピルバーグ、ウォルト・ディズニー、フェリーニ、マリリン・モンロー(ルネ・クレール、ジュリアン・デュヴィヴエ、ルネ・クレマン、ルキノ・ヴィスコンティ、グレタ・ガルボ、マレーネ・ディートリッヒ、ローレンス・オリヴィエ、アルフレッド・ヒッチコック、音楽のニーノ・ロータなど)
その他…ロバート・キャパ、ココ・シャネル、イサム・ノグチ、ル・コルビュジェ(建築関係ではフランク・ロイド・ライト、京劇の梅蘭芳など)
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