バアルの神殿
1928年、シリア北部ラス・シャムラでシリア人の農夫が、奇妙な粘土板を掘り出した。町の郊外にある丘の麓に、青銅器時代の古代都市ウガリットが埋もれていた証拠でもあった。まもなくクロード・シェフェール(1898-1982)率いるフランスの考古学調査隊によって何百もの粘土板が発見された。大半の粘土板には、カナンの神話に登場するバアル神を主人公にした大叙事詩が記されていた。これらの物語は「バアル史詩集成」と呼ばれている。一連の物語は、バアル神がライバルのヤムを倒して王権を握るところから始まる。バアルを称えて宴が催されるが、翌日、妹であり恋人でもあった戦の神アナトがウガリットの町の戦士たちを皆殺しにしたため、町の人々は恐れをなして町から逃げ出してしまう。バアルが、せっかくヤムとの戦いに勝ったのに、父のイルは自分の神殿を持つことを許してくれない、とアナトに不満を漏らすと、アナトはイルのもとに行き、もしバアルが自分の神殿を持つことを許さないのなら、その灰色の髪を血に染めてやると脅かした。するとアナトの足もとから地震が起こる。イルは慌てて玉座の間から逃げ出した。この地震はきっと上なる神々のご意志に違いないと信じたイルは、ウガリットの神殿をバアルに与えた。物語はバアルと死の神モートの戦いで終わる。バアルが永遠にモートの下僕と化してしまうことがないようにと、太陽の女神シャパシュはバアルに知恵を授ける。モートとの最後の闘いの際に、自分の身体を身代わりの身体とすり替えておくように、と助言したのだ。闘いのあと、バアルは山中に身を隠す。そのため神々はバアルが死んだものと思った。深い悲しみに沈んだアナトは、兄を探して冥界に降りていき、その命を返してほしいとモートに乞うた。だがモートはかかと笑って女神を相手にしない。怒った女神は剣をとってモートに襲いかかり、その骨を身体からつかみ出し、肉を細かく切り刻み、遺骸を鳥どもに投げ与えた。恨みを晴らしたアナトはイルのもとに帰る。だがそこで彼女を迎えたのはバアル自身だった。彼はついにウガリットの王となったのである。Claude Schaeffer
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