「琉球」と聞けば、多くの人は首里城守礼門の沖縄を思い浮かべる。ところが、「琉球は台湾だった」といえば話がややこしくなる。日本の九州から南、台湾島に至る間につらなる列島を、北から正確にいえるだろうか。
種子島、屋久島、トカラ列島、奄美大島、徳之島、沖之良部島、与論島、沖縄島、久米島、宮古島、石垣島、西表島、与那国島、台湾島である。
台湾には先住民はいたが、清朝支配下となるまで、対外的な統一名は無かった。したがって、中国の古文献によって古代の地名を比定することになる。まず「漢書」地理志に次のように記されている。
「会稽の海外に東鯤人あり、分かれて二十余国となす。歳時をもって献見す」
この「東鯤」(とうこん)が台湾であると唱えたのは日本の東洋史家・市村讃次郎であるが、確証は未だない。
7世紀はじめ、「隋書」煬帝紀に
「流求国は海島の中に居り、建安郡の東、水行五日にして至る」
この「流求」は、現在の台湾であることは間違いない。大業3年(603年)、煬帝は朱寛、何蛮らに台湾遠征を命じた。
以後、「流鬼」(新唐書)、「琉求」(宋史)、「瑠求」(元史)のなどの地名が見える。
つまり、古代において中国では、台湾のことを「琉球」とよんでいたたのであるが、現在の沖縄についても区別することなく、全体を「琉球」と称していたとおもわれる。そのため戦前の学界では、混乱が生じ、琉球沖縄説と琉球台湾説に分かれた。今日では、西洋の地図なども検討し、隋、唐、宋、元代に見える「琉球」の地名は台湾を指していると見るのが定説である。
では、なぜ沖縄を指して「琉球」と称するようになったのか。それは、、明の洪武年間(1368-1398)、沖縄の中山王が明の冊封を受けたため、朝貢国である沖縄を「大琉球」とし、一方朝貢していない台湾を野蛮な島として「小琉球」と区別するようになったためである。もともと「大琉球」「小琉球」の区別は16世紀のヨーロッパ人によるものが最初であるらしい。オリテリオスの「太平洋図」(1589年)において沖縄と台湾を「Lequuuei grande」「Lequeio pequenno 」と区別している。「pequeno」とはポルトガル語で「小さい」の意である。レケオ・ペケニョらの地図でも台湾が「小琉球」と呼ばれていたことがわかる。日本では台湾をもともと「たかさご」と呼んでいた。豊臣秀吉の国書には「高山国」(1593年)とある。のちに「たかさくん国」などの表記が見られるが、17世紀初めの船乗りたちは台湾のことを「たかさご」と呼んでいた。 しかし、中国では沖縄が「琉球」と定まったのに対して、台湾の呼称は「東蕃」「北港」「雞籠」「台員」「大冤」などの名があてられたが、いずれも台湾全体をさした呼称ではなかった。鄭氏が清国に屈服し、台湾が清国領となって以後、「台湾」の名で呼ばれるようになった。近年、台湾人というアイデンティティが形成されつつあり、「自分たちは中国人ではなく台湾人」天然独と呼ばれる若者が急増している。国際社会では独立国と認めていない台湾の、これからを見守りたい。
台湾関係文献
台湾諸島誌 小川琢治 1896
台湾と南方支那 田中善立 新修養社 1913
台湾殖民発達史 佐藤四郎 台北晃文館 1916
謎の生蕃 田上忠之 謎の生蕃刊行会 1923
台湾の風景 田村剛 雄山閣 1929
台湾の1年 川村竹治 時事研究会 1930
台湾の蕃族 藤崎済之助 国史刊行会 1931
台湾農業年報 昭和6年 台湾総督府殖産局 1932
台湾農業年報 昭和7年 台湾総督府殖産局 1933
台湾案内 井東憲 植民事情研究所 1935
南進台湾史攷 井出季和太 誠美書閣 1943
琉球諸島における倭寇史跡の研究 稲村賢敷 吉川弘文館 1957
新竹県制度考 日本闕名撰 台湾文献叢刊第101種 台湾銀行 1961
台湾人四百年史 史明 音羽書房 1962
琉球史料双書 伊波普献等編 井上書房 1962
台湾 苦悶するその歴史 王育徳 光文堂 1964
台湾の現実と日中関係 台湾ナショナリズムの動向を中心に 現代アジア社会思想研究会 同研究会 1965
台湾の経済と金融 アジア諸国経済・金融シリーズ1 久保田太郎 国際図書 1967
日本統治下の民族運動 下(台湾史叢書2) 台湾総督府 台湾史料保存会 1969
台湾資料 秘書類纂18 明治百年史叢書 伊藤博文編 原書房 1970
呉濁流選集1 夜明け前の台湾 飯倉昭平訳 社会思想社 1972
呉濁流選集2 泥寧に生きる 社会思想社 1972
台湾の経済成長 その数量経済的研究 篠原三代平、石川滋共編 アジア経済研究所 1972
台湾の農業 斎藤一夫編 アジア経済研究所 1972
日本統治下の台湾 許世楷 東京大学出版会 1972
台湾処分と日本人 林景明 旺史社 1973
台湾年鑑 1973年版 台湾問題研究所編 PNS通信社 1973
台湾の光と影 維新叢書4 影山正治 大東塾出版部 1973
台湾医学五十年 小田俊郎 医学書院 1974
台湾年鑑 1975年版 PNS通信社編 新国民出版社 1975
台湾の霧社事件 真相と背景 森田俊介 伸共社 1976
台湾年鑑 1977年版 台湾研究所編 台湾研究所 1977
台湾の蕃族研究 霧社事件 南方資料叢書1 鈴木作太郎 青史社 1977
中国と琉球 野口鉄郎 開明書院 1977
琉球の歴史 宮城栄昌 吉川弘文館 1977
壺を祀る村 台湾民俗誌 国分直一 法政大学出版局 1981
台湾語大辞典 2冊 台湾総督府編 国書刊行会 1983
台湾風俗誌(復刻) 片岡厳 青史社 1983
海峡 台湾政治への視座 研文選書 若林正丈 研文出版 1985
最新台湾経済のすべて 矢島欽次 日本経済通信社 1986
台湾人士鑑 昭和9・12・18年版 復刻 興南新聞社編 湘南堂書店 1986
台湾民主国の研究(重版) 黄昭堂 東京大学出版会 1983
台湾アミ族の社会組織と変化 末成道男 東京大学出版会 1984
台湾の旅 エリアガイド66 小林克己 昭文堂 1984
琉球・清国交易史(二集『歴代宝案』の研究) 宮田俊彦 第一書房 1984
台湾の原住民族 宮本延人 六興出版 1985
台湾の旅 ワールド・トラベル・ブック6 ワールドフォトプレス 1986
高砂族調査書 台湾総督府警務局理藩課 湘南堂書店 1986
朝鮮・琉球航海記 1816年アマースト使節団とともに ホール著 春名徹訳 岩波書店 1986
台湾難友に祈る 鐘謙順、黄昭堂編訳 日中出版 1987
台湾の民族と文化 宮本延人、瀬川孝吉、馬渕東一 六興出版 1987
台湾・爆発力の秘密 ノン・ブック 黄昭堂 祥伝社 1988
台湾の改革派 戸張東夫 亜紀書房 1989
台湾の本 旅のガイドムック 近畿日本ツーリスト 1989
台湾の前途 中国統一か、独立か 小林進編著 サイマル出版会 1989
台湾ニューシネマの旗手候孝賢(ホー・シャオシェン) 田村志津枝 岩波書店 1990
台湾の危機と転機 張俊宏著 吉田勝次・李家騰訳 社会評論社 1990
台湾百科 若林正丈編著 大修館書店 1990
台湾に革命が起こる日 鈴木明 リクルート出版 1990
台湾を愛した日本人 土木技師・八田與一の生涯 古川勝三 創風社 2009
世界史のなかの東アジア 台湾・朝鮮・日本 汪暉著 丸川哲史編訳 青土社 2015
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