漱石先生この絵はお嫌いですか
NHK日曜美術館で紹介されていた日本画家の木島櫻谷。若き日の作品「寒月」を夏目漱石が新聞紙上で酷評している。かなり見当違いな指摘で木島が可哀そうだ。漱石自身も絵画を嗜むものの素人の域をでず上手とはいえない。初期作品「草枕」などにも絵画への傾倒が見えるが、理屈が先行しているようで美術評論には偏向がうかがわれる。結論としては、どんなに博覧強記の学者であり、芸術家であっても必ずしも正しいとはかぎらない。日本古代史最大のミステリー邪馬台国論争においても典型がある。九州出身の松本清張は古代史ミステリーに取り組み邪馬台国の位置を推論している。没年が1992年であり、1989年には吉野ヶ里遺跡の発見があったので、おそらく清張本人は九州説には満足してあの世に旅だったであろう。しかし2009年、奈良の纏向遺跡で大型建物跡が発見され、大量の桃の種が出てきた。桃は古代、魔除けなどに使われ、これが邪馬台国大和説の有力な根拠として説かれることが多い。現在、畿内大和説を唱える学者は90%を超え、安本美典や高島忠平などの九州説や他は全体合わせても数%という状況である。もちろん多数決で決まるわけでもなく、決定的な証拠が見つかったというのではないので邪馬台国問題は未だ未解決である。しかし、偉い作家や学者さんも偏見や偏向で見誤ることがあるというのは事実だ。むしろ人間の知力の限界を知ることが大切であり、権威や偉人というブランドに迷わされないことが求められる。
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