広辞苑に「源氏鶏太」が採録されない理由は?
広辞苑が10年ぶりに改訂され「第7版」が来年1月に発売される。「スマホ」「朝ドラ」「お姫様抱っこ」「可視化」「自撮り」などの新語・現代語がおよそ1万語追加される。気になる人名の分野では「赤塚不二夫」「永六輔」「大鵬」「高倉健」などが収録されているもようだ。はたして「菅原文太」が載っているかどいうかは未確認である。
このブログ記事では多数の人名が登場する。人名事典に採録されている著名人もあれば、歴史的記録に記述はあるものの事典に採録されることがまずない無名の人を取り上げることもある。三省堂の「コンサイス日本人名事典」は収録数は約14.000でかなり記事を書くときに重宝している。「広辞苑」第6版の人名の収録数はいくらであるか不明であるが、少なくともコンサイスの10分の1はあるのではないだろうか。コンサイスに比べかなり広辞苑に収録されることは狭き門となるわけだが、いかなる基準があるのか定かではない。凡例の編集方針にただ「わが国の人名は物故者に限った」とあるのみである。とりあえずどの程度までの人名が採録されているのか、近代日本の文学者で調査してみた。手はじめに文学としたのは、この分野は比較的収録されやすいと考えたからである。
高校国語程度ということを標準に、「国語便覧」(数研出版)、「新総合図説国語」(東京書籍)、学燈社の「現代詩」「現代俳句」「現代短歌」で収録している人名を参考に調査する。
「広辞苑」に採録されない文学者
富安風生(1885-1979) 俳人
原石鼎(1886-1951) 俳人
福士幸次郎(1889-1946) 詩人
杉田久女(1890-1946) 俳人
白鳥省吾(1890-1973) 詩人
富田砕花(1890-1984) 詩人、歌人
平戸廉吉(1893-1922) 詩人
百田宗治(1893-1955) 詩人
阿波野青畝(1899-1992) 俳人
橋本多佳子(1899-1963) 俳人
秋元不死男(1901-1977) 俳人
源氏鶏太(1912-1985)小説家
高木彬光(1920-1995) 小説家
山川方夫(1930-1965) 小説家
阿部昭(1934-1989) 小説家
* * * * *
落選した人たちの傾向を分析する。
①白鳥省吾、富田砕花、百田宗治など民衆詩派は全滅。つまり地方で活動しても、岩波は中央文壇で活躍しないと認められないのだろうか。
②山川方夫も阿部昭も評価は高い。山川は「クリスマスの贈物」で直木賞候補、「愛のごとく」で芥川賞候補、阿部は芥川賞候補に6回のぼっている。つまり芥川賞を受賞しないと認められないのだろうか。
③松本清張、横溝正史と収録されているので、高木彬光は期待したが落選だった。やはり推理小説作家にとって岩波書店は狭き門なのだろうか。
④富安風生、原石鼎の落選の理由も謎である。「広辞苑」はホトトギス系が嫌いなのだろうか。富安は94歳まで長命で著書も多数あり、古きになじまず、新しきに走らず、伝統をふまえて清新を求める「中道俳句」なのだが。
⑤源氏鶏太が採録されないのが最大の謎である。昭和30年代、最も愛され読まれた小説家なのだが・・・
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