郵便配達は二度ベルを鳴らす
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」奇妙な題名である。物語に郵便配達夫は登場しない。前科のある流れ者の男と、歳の離れた夫を持つ女が、不倫の果てに夫を殺害し、悲劇的な結末を迎えるさまを描く。むかしから映画にはデートリッヒやアイダ・ルピノ、シモーヌ・シニョレのような美女が男を破滅させるファム・ファタール(悪女)の作品が数多くある。原作は、アメリカのジェームズ・M・ケインが実話をヒントに小説としたもの。これまで4度も映画化され、ミッシェル・シモン(1939年)、クララ・カラマイ(1942年)、ラナ・ターナー(1946年)、ジェシカ・ラング(1981年)がヒロインを演じた。セクシー女優ラナ・ターナーを売り出した作品だが、その4年前にイタリアで作られたヴィスコンティの初期作品に惹かれる。ジョヴァンナ役は初めアンナ・マニャーニが演ずることになっていたが、妊娠していたため、急遽クララ・カラマイ(1915-1998)が演ずることになった。カラマイは「白夜」「華やかな魔女たち」など戦後脇役女優として知られるが、この映画の彼女はすばらしい。カラマイが醸し出すはかない女の哀愁がただよう。相手役のマッシロ・ジロッテイも男性的魅力にあふれ、男と女を結ぶ一本の絆がしがらみつくような感じで真摯な愛情が伝わってくる。名作とはこれだ。
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