ニューシネマとは何だったのか
アメリカの代表的な週刊誌「タイム」は、1969年12月号で「ニューシネマ、暴力、セックス、芸術、自由に目覚めてハリウッド映画の衝撃」という大見出しをつけて、「俺たちに明日はない」の特集記事を掲載した。このあとアメリカ映画は「卒業」「イージー・ライダー」「明日に向かって撃て」が次々とヒット作を連発した。だが「ニューシネマとは何か」と改めて問うとよくわからないところがある。ある人はベトナム反戦で生まれたといい、ある人はアメリカという国の体制にうまくなじめない若者を描いたという。しかし、このような定義では括れない映画もニューシネマといわれる。「俺たちに明日はない」はベトナム反戦の主張が含まれているわけではない。新しいスター、非ハリウッドというが、主演のウォーレン・ビューティは「草原の輝き」で知られた既成のハリウッドの美男スターだ。「アリスのレストラン」という映画が、ベトナム戦争、徴兵制度、ヒッピー、麻薬などニューシネマ的素材をてんこもりにした作品だろうか。しかし、「バニシング・ポイント」などただ猛スピードでアメリカを横断し、爆死するという内容に映画的な新しさを感じても、ニューシネマ運動という共通の芸術理念を見出すことは困難である。つまり、イタリア・ネオリスモやフランス・ヌーベルバーグのような映像作家の共通した芸術意識をニューシネマからは見出しにくいのである。「俺たちに明日はない」が制作されたころ、既成のハリウッド映画界は「哀愁の花びら」や「サンタモニカの週末」などが作られた。両作に出演しているシャロン・テートはその時代のハリウッド・シンボルともいえよう。トニー・カーティスやロック・ハドソンといった二枚目がシリアスからコメディ路線に転向しやがて人気に陰りがみえはじめた。そうしてニューシネマはパニック映画「ポセイドン・アドベンチャー」「タワーリング・インフェルノ」などのグランド・ホテル形式の既成の豪華ハリウッド・スター映画のヒット作の攻勢によって自然的に消滅していった。スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスなどニュー・シネマ後期から出現した新しい若手監督によって、ハリウッドは再び活発になっていったことがニューシネマの功績といえる。
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「ポセイドン・アドベンチャー」、昔、映画館に観に行きました。懐かしいです。この映画では、身を挺して皆を救う英雄的存在の牧師、ジーン・ハックマン、その後の作品では、悪役を演じる事が多かったですね。
投稿: イクちゃん | 2017年3月19日 (日) 21時48分