君よ知るや南の国
「君よ知るや南の国、樹々は実り花は咲ける」という堀内啓三(1897-1983)による名訳で知られる「ミニヨンの歌」は、もともとゲーテの小説「ヴィルヘルム・マイスターの修行時代」(1791-1796)の中の詩である。「ミニヨンの歌」は4編あるが、よく知られるのはヴィルへルムへの密かな恋心を抱くサーカス一座の少女ミニヨンが、故郷イタリアへの想いをうたう歌で、フランス人のアンブロワーズ・トーマの歌劇「ミニヨン」の中のアリアである。歌曲「ミニヨンの歌」はこれまで90曲ほどの作品が残されている。おもな作曲家としては、ライヒヤルト(1752-1814)、ツェルター(1758-1832)、ベートーベン(1770-1827)、シューベルト(1797-1828)、メンデルスゾーン(1805-1847)、シューマン(1810-1856)、リスト(1811-1886)、グノー(1818-1893)、ルービンシュタイン(1829-1894)、チャイコフスキー(1840-1893)、デュバルク(1848-1933)、ヴォルフ(1860-1903)などがいる。
またゲーテの詩「ミニヨンの歌」の邦訳も森鴎外はじめ数多く残されている。
君知るや南の国
レモンの木は花咲き くらき林の中に
こがね色したる柑子は枝もたわわに実り
青き晴れたる空より しづやかに風吹き
ミルテの木はしづかに ラウレルの木は高く
雲にそびえて立てる国や 彼方へ
君とともに ゆかまし
(森鴎外の訳)
*
君や知る、レモン花咲く国
暗き葉かげに黄金(こがね)のオレンジの輝き
なごやかなる風、青空より吹き
テンニン花は静かに、月桂樹は高くそびゆ
君や知る、かしこ。
かなたへ、かなたへ
君と共に行かまし、あわれ、わがいとしき人よ。
君や知る、かの家。柱ならびに屋根高く、
広間は輝き、居間はほの明かるく、
大理石像はわが面を見つむ、
かなしき子よ、いかなるつらきことのあるや、と。
君や知る、かしこ。
かなたへ、かなたへ
君と共に行かまし、あわれ、わが頼りの君よ。
君や知る、かの山と雲のかけ橋を。
ラバは霧の中に道を求め、
洞穴に住むや古籠の群。
岩は崩れ、滝水に洗わる。
君や知る、かしこ。
かなたへ!かなたへ
わが道は行く。あはれ、父上よ、共に行かまし!
(高橋健二の訳)
*
君よ知るや南の国
レモンの花咲き オレンジのみのる国
空は青く 風はさわやか
桂(かつら)はそびえ ミルテかおる
君よ知るや かの国
はるかに はるかに
恋人よ 君といこうよ
君よ知るや 南の国
そこにある わがすみか
広間あかるく 花の香みちる
「おまえは しあわせ?」
やさしく といかける ふるい胸像
はるかに はるかに
恋人よ 君といこうよ
(三木澄子の訳)
*
ミニヨン
あこがれを知るひとだけが、
私の悩みを知っている。
すべての喜びから
ひとり離れて、かなたの
大空を私は眺める。
ああ、私を愛し、知っているひとは、
遠い所にいる。
目はくらみ
私の心は燃える。
あこがれを知るひとだけが、
私の悩みを知っている。
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