教養小説論
1955年のこの日、トーマス・マンは80歳で没した。マンはゲーテ、ショーペンハウエル、ニーチェ、ワーグナーの影響を受けた現代の叙事詩人ともいうべき作家で、人生と芸術に関する多くの問題を呈示した。代表作に「ヴェニスに死す」「ブッテンブローク家の人々」「ヨーゼフとその兄弟たち」などがある。世界文学では、ドイツ語で「ビルドゥングス・ロマンス Bildungsroman」というジャンルがある。日本語では適当な訳語がないため、一般には「教養小説」「人間形成小説」という語が使用されている。
若い主人公が自己をとりまく外的世界と戦ったり、その影響をうけたりしながら、固有の人格を完成し、一定の生活理念を形成していく過程を描いていく。ゲーテの「ウィルヘルム・マイスター」、ケラーの「緑のハインリッヒ」、ヘッセの「ペーター・カーメンツィント」、トーマス・マンの「魔の山」などが典型的な作品である。新しくは、社会の底辺に差別されて生きることを宿命として受け入れていた無教養な黒人女性が目覚め、成長していく姿を描いた「唇のふるえ」(A・ウォーカー)も、やや通俗ではあるがこのジャンルに入れることができるであろう。
日本では、志賀直哉「暗夜行路」、島崎藤村「夜明け前」、下村湖人「次郎物語」、宮本百合子「伸子」、芹澤光治良「人間の運命」などがあげられる。(8月12日)
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