吉川英治「三国志」
ケペルが中学生の頃、講談社から吉川英治全集の第1回配本「三国志」の広告を新聞で見た。ペン画の精緻なイラスト付きで(生籟範義か?)次の宣伝文がある。「英雄・豪傑がくりひろげる世界一面白い小説。中国の大地を駆けめぐる軍馬の轟きが…数千の英雄たちの勇姿が…豪快なスケールで展開する一大ロマン!吉川「三国志」は、この二千年前の壮大な歴史に、現代の息吹をあたえました。しかも、数々のエピソードは、あなたの人生に大きな夢を育ててくれます。」(毎日新聞昭和41年8月12日)当時、中学生だった私は是非読みたいと思った。だが記念特価590円という高額でとても手が出ない。幸いにも兄がすぐに購入してきた。函入り、カラー挿絵ありの豪華な本であった。吉川英治(1892-1962)は昭和37年に亡くなったので、この全集はほぼすべての作品を収録した本格的な全集であった。
広告には当時ラジオ「話の泉」やテレビ「私の秘密」で知られた渡辺紳一郎(1900-1978)が人物解説している。
劉備 漢の景帝の子孫であるが、おちぶれてクツ屋をしていた。だが、穏やかで、徳望のある人物であったため、暴れん坊の関羽・張飛に慕われ、桃園で義兄弟の杯を交して、民衆を苦しめ国家を乱した黄巾賊を一掃する。後に軍師・孔明のスカウトに成功して蜀の帝位につく。
孔明 学者だけに、関羽・張飛ほどの面白味はない。劉備の参謀総長。戦略にたけていた。豊臣秀吉の竹中半兵衛のような人物だった。また、楠木正成は日本の孔明といわれていた。劉備が死ぬ時、息子がバカだったら帝の位について欲しい…とまでに尊敬されていた。
関羽 中国の理想的な軍人と崇拝され、今も、関羽の廟が至る所にある。重さ50㎏の大青龍刀を振り回す劉備の第一の幕僚。中々の美男子で、胸まで垂れた関羽ヒゲは有名。加藤清正のヒゲは、その和製である。
張飛 関羽にひきかえ、色黒く、ブ男。だが2メートルを越す長身の上に、力があり、常に前線部隊長となって活躍する。張飛ここにあり!と叫べば、百万の敵もふるえあがったという。豪傑のわりには、いささかオッチョコチョイであり、時には失敗もするが、これがまた民衆の人気を呼ぶゆえんである。
曹操 悪玉の見本みたいに言われているが、中々の大物。占師に「平時の能臣、乱世の奸物」の相があると言われてもかえって喜んだほどのスケールの大きな人物。現代の社会、現代の世界にも通用する。戦いに惨敗しても、朗々と詩を口ずさんだりしている。
孫権 青いヒトミ。大きな口、紫のヒゲのエキゾチックな好男子。曹操の対抗馬で、剛毅な一面を持っていた。わずか19歳で呉王となり、水軍数百万を指揮した。
三国志演義は、其れ以前我が国では、湖南文山や「通俗二十一史」(早稲田大学出版部)で知られていたものの、若い世代にとってはかなり難解であったが、吉川三国志は読みやすく、戦後の三国志ブームの出発点となったといえる。横山光輝もだいたいは吉川三国志を原作として漫画化している。三国志で広く読まれている児童書は野村愛正(1891-1994)の翻案ものである。
三国志物語 世界名作物語 野村愛正 講談社 1940
三国志物語 村山知行 中央公論社 1940
三国志物語 世界名作全集 野村愛正 講談社 1952
三国志物語 名作物語文庫 園城寺健 講談社 1955
三国志物語 少年少女物語文庫 蒲地歓一 集英社 1959
三国志・西遊記 世界名作全集1 立間祥介 平凡社 1960
三国志 竹崎有斐 あかね書房 1990
三国志 講談社KK文庫 斉藤洋 講談社 1991
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