井上靖と伊豆湯ヶ島
井上靖は明治40年5月6日に、軍医だった父の任地である北海道旭川町に生まれている。6歳のときに父母の許を離れて、静岡県伊豆湯ヶ島の祖母の許で生活する。しかし実際には、医師をしていた曽祖父の妾だったかの(「しろばんば」のおぬい婆さん)という女性によって育てられた(「わが母の記」による)。土蔵に住む後に戸籍上の祖母となった彼女と一緒に暮らしたが、その頃の様子は幼少時代の自伝的小説『しろばんば』に描かれている。小学校6年の時かのが亡くなり、湯ヶ島から両親の家のある浜松に戻っている。井上の孤独な少年時代の経験は、『しろばんば』のほかにも『夏草冬濤』『あすなろ物語』『滝へ降りる道』『ざくろの花』『白い街道』などの短編にも美しく描かれている。このような詩人的資質は、孤児の感情と、おおらかな自然感覚によって育てられていったといっていいだろう。
« 深沢七郎と今川焼 | トップページ | 中島孤島「こども世界歴史」 »
コメント