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2016年3月21日 (月)

カナリアがいたからカナリア諸島!?

 昭和の時代、カナリアは飼い鳥の王様だった。洋風の応接間にはカナリアの入ったカゴを置き、お客様を招いて洋菓子と紅茶を頂く。けれども時代の変化とともに、いつのまにかカナリアも家庭で見かけることはまれになった。カナリアは、スペイン領カナリア諸島原産で、14世紀から15世紀にかけて、スペイン人によってヨーロッパにもたらされた。原種のカナリアは緑がかった茶色をしているが、現在のカナリアは黄色から、赤、アプリコット、あるいはオパールといった様々な色をしている。16世紀では貴族や宮廷の貴婦人の間でその美しいさえずりが人気を博したが、17世紀には上流階級の市民、さらには裕福な商人や職人にまでカナリアの愛好家が広まっていった。カナリアが最初に登場した学術的な文献はスイスの書誌学者コンラート・ゲスナーの「動物誌」(1551-1558)である。この本には「砂糖の産地であるカナリア諸島からもたらされる、カナリアというさえずりの上手な鳴禽」が「どこでも法外な値段で売られている」と書かれており、この頃すでに、相当数のカナリアがヨーロッパで売買されていたことがわかる。当時はオスのみが取引されていたようだが、やがて、経緯は不明ながらメスも輸出されるようになる。1675年にイギリスで出版されたジョウゼフ・ブレイグローヴの「畜産技術概論」には、カナリアがドイツ及びイタリアで大量に繁殖されていると記されているし、1704年にフランスで出版されたエルヴュー・ド・シャントルーの「新カナリア考」にも、ドイツからカナリアを売りに来る行商人のことが述べられている。

   一般にカナリアといえば黄色をイメージする。黄色は希望の色であり、電気が発明される以前のほの暗い室内に、明るい歌声とともに鮮やかな黄色をもたらしてくれたから、カナリアが何百年も西欧で愛されてきたのであろう。ダイナ・ショアが歌う「青いカナリア」(1953)、日本では雪村いづみがカバーしてヒットしたが、青いカナリアは本当にいるのだろうか。青い鳥は幸せを運ぶ鳥と信じられているが、実際には青いカナリアは存在しない。

   さて、カナリアといえば北アフリカ大西洋沖に浮かぶスペイン領のカナリア諸島をすぐ思い浮かべるが、カナリアがたくさん生息していたので、その名がつけられたのだろうか。古代ギリシア人やローマ人はそれらの諸島を「犬の島」と呼んでいた。おそらく島に多くの野犬がいたのだろう。それでスペイン人たちも「イスラス・カナリアス」Insula Canaria、犬の島と名づけた。鳥のカナリアはこの諸島が原産地であるため、諸島名にちなんでカナリアと名づけられた。カナリアがいたからカナリア諸島という名になったわけではない。逆だったのだ。

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