東京文学散歩・吉原
台東区竜泉・吉原界隈。明治26年、樋口一葉は本郷菊坂町より下谷竜泉308番地に、母と妹と三人でここに住んだ。不朽の名作「たけくらべ」(明治28年)の舞台となった竜泉町である。下谷から吉原の裏門に通じる吉原茶屋通りと呼ばれる道路に面して、最初の店を開いたのは8月6日、ささやかな店ではあったが、荒物雑貨・文房具・子供相手のおもちゃや菓子類をならべた商いの傍ら創作にはげむ。この竜泉寺で書いたのが「琴の音」で、「文学界」に掲載されるとともに、しだいに文学界同人たちとの交際も密接になっていく。「たけくらべ」の舞台となった吉原界隈に住む人々は、多かれ少なかれ吉原に寄生して生活しているものばかりである。物語の主人公、大黒屋(吉原の妓楼)の美登里は、いずれは遊女になる運命の活発な14歳の少女。一葉は貧しい庶民が吉原によりすがって生きる有り様に目を据えて、それを独特の風俗として細やかに描いている。
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