髭を生やしている男をみなくなった
19世紀は西欧も日本も成人男子は髭を生やしているのはごく普通であった。西欧で髭を生やすようになったのは市民革命と関係がある。革命以前は身分の上下を画するものの象徴が髭だった。政治家、役人、教師、警察たちの専売特許であった髭が、革命後、学生、給仕、職人まで髭を反体制の象徴として自由に生やせるようになった。日本では江戸時代、一般に髭は剃刀でそり落すのが普通であった。幕末の佐久間象山の「天神ひげ」などは例外的であろう。明治になって、文明開化の気運によって、欧米の風習をまねて、髭を生やすことが流行になった。伊藤博文や井上馨などの欧化主義者はその典型であろう。また夏目漱石のような洋行帰りの学者たちも口髭をたくわえた。口髭では「カイゼル髭」と「コールマン髭」がよく知られている。カイゼル髭とはドイツ皇帝ウィリヘルム2世の髭のように末端のはねあがった口髭のことで日本だけの造語である。コールマン髭は映画俳優ロナルド・コールマンに由来するが、短く刈り調えた上品な口髭である。コールマン髭は英語にもあり、コールマンは死ぬまで髭を剃ることはなかった。ダブニー・コールマンという映画俳優も、コールマンという名前からやはり口髭がトレードマークなのも面白い。歴史上の人物では、探検家バスコ・ダ・ガマの「大ひげ」、南宋の詩人・陸游の「どじょうひげ」、ホー・チ・ミンの「やぎひげ」、米大統領リンカーンの「あごひげ」、英国の政治家ロルド・マクミランの「鼻ひげ」などいろいろある。映画俳優では、髭のスターといえばチャップリンやクラーク・ゲーブルが有名であるが、フレドリック・マーチやウィリアム・パウエルも印象的である。またデビッド・ニーブンの洒落た英国紳士にも口髭がよく似合う。オマー・シャリフやショーン・コネリーのような口髭の似合うスターも段々と少なくなってきて淋しい気がする。
« サンマ学名のなぞ | トップページ | ルーズベルト・ゲーム »
コメント