人面獣神像について 日本・中国・エジプト・ペルシア
内藤記念くすり博物館(岐阜県各務原市)の展示品のひとつに奇妙な姿の彫像がある。角が頭に2本、胴体に4本、目玉が顔面に3つ、胴体両側に3つずつの9個。顔はあきらかに人間であるが、胴体は四足の獣のようである。江戸時代の作らしく、病魔除けの神獣「白沢(はくたく)」と呼ばれている。白澤の図像は江戸時代の諸書に数多く見え、旅先の際、ふところに白澤図像を入れておくと災難・病魔から逃れられる。人間の言葉を理解する神獣である。
もともと「白澤」は中国が起源で、黄帝神話・伝説の中で、黄帝の前にその姿を現し様々な鬼神について語ったとされる。黄帝は白澤の言葉をもとに図を描かせ、鬼神の害を除いたとされる。そのために、白澤は「黄帝のような徳のある王者の前に出現する獣」として人々に捉えられるようになり、中国皇帝の鹵簿では白澤を象った旗が掲げられ、皇帝の徳を象徴するために白澤の図像が用いられた。白澤の図像は中国や朝鮮では虎首龍身や獅子型のものが多くみえる。それに対し、日本や琉球では人面牛身の白澤像が残されている。
明会典に所載する官服補子「白澤」(明代晩期)
人面獣身(あるいは人頭獣身)の彫像の起源を探ると、誰しも古代エジプトのギザの大スフィンクスを想起するであろう。従来、スフィンクスの顔は第4王朝のカフラー(前2558-2532)を表現し、その建造年代は前2550年頃とされていた。近年の研究によると、胴体部分の侵食の具合などから、カフラー王以前に建造されたとみられる。つまりピラミッドの守護神とみられていたスフィンクスがピラミッドが建造されるよりずっと以前に造られていたと考えられるのである。人面獣身の像はその後もオリエントの諸国家の守護神として伝播される。とくに知られるのはペルシアである。前5世紀ペルセポリス王宮の大基壇の階段をのぼった所には、「万国の門」と呼ばれたラマッス(人面有翼牡牛像)が聳えていた。
ペルセポリス王宮 クセルクセスの門 前5世紀前半。高さ5.6.m。
ルーブル美術館にある人面有翼の牡牛像。前8世紀サルゴン2世の都コルサバート出土。
ギリシア神話に登場する半人半獣のケンタウロスは、馬の首から上が人間(男性)の上半身である。好色で酒好きの暴れ者で、弓矢や槍、棍棒を使う。遊牧民スキタイの影響といわれている。
付記:これらの記事は8月1日に開催された関西大学東洋史大会で岡部美沙子氏の「中国における白澤図像ー西安戸県の白澤図像を事例として」に触発されたものである。
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