日本と中国における当て字について
日本や中国、台湾や香港など漢字圏において、外来語は漢字による当て字が使用される。日本には漢字のほかカナ、カタカナがあるので昭和期になると、音で当てたカタカナ表記が普及するが、ほかの漢字圏では現在でも外来語はすべて漢字のみの使用である。もちろん中国本土では簡体字、台湾や香港などでは繁体字など字体、表記の違いがみられる。
外来語を漢字で訳する際、大きく分けて3つのケースがみられる。第1はその意味をとって漢字に翻訳する「意訳」である。「電脳(コンピューター)」や「便利商店(コンビニ)」などは漢字の意味で当てた例である。第2は、「可口可楽(コカ・コーラ)」や「路易威登(ルイヴィトン)」のように漢字の字義を無視して、原音に近い音の漢字を当てて「音訳」する場合である。第3は2つを折衷したもので、ミニスカートを「迷你裙」(minigun)と当てた例である。「君を迷わせる」で発音はミニにより、最後の文字「裙」はスカートを表わす。
このほか漢字による仮借は、日中間で漢字表記は同じ場合もあるが、異なることも多い。イギリスは英国で同じであるが、フランス(法国、仏蘭西)ドイツは(徳意志、独逸)で異なっている。
「接吻」(ジェウェン jie wen)はすべての漢字圏で共通に使用されるが、日本語としてはキスのほうが一般的であるが、いまでも通用する言葉である。キスの習慣そのものの歴史は古くからあったようである。奈良時代に中国から伝えられた。しかし、それは一部の貴族階級だけのことで、庶民の間に普及したのは江戸時代のことでオランダ人が伝えたらしい。キスのことを口を二つに重ねたことから「呂の字」といった。日本初の英和辞典「譜厄利亜語林成」では「Kiss 相呂」と載っている。さらに、キスという言葉が「口吸い」から「接吻」という言葉になったのは明治期のことである。キスを最初に接吻と訳したのは上田敏といわれている。国木田独歩の恋愛日記「欺かざるの記」(1893年)には佐々木信子とのキスが「接吻」という表現で何度も出て来る。
台湾のコンビニ(便利商店)。全家とは「この家にいるすべての家族」という意味でファミリー・マートのこと。
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