愛のきずな
なかなか眠れない深夜、古ビデオを観る。「愛のきずな」(1969年)松本清張「たづたづし」を原作とした異色サスペンス映画。専務の娘(原知沙子)と結婚した鈴木良平(藤田まこと)は出世コースにのるサラリーマン。けれども、父親や権威をかさにきる妻とは深い溝があった。そんなある雨の日、良平は可憐な娘雪子(園まり)に出会い、愛しあう。しかし、雪子には服役中の夫(佐藤允)がいた。それまで良平は雪子がまだ結婚していないと信じていた。雪子との愛の生活を選ぶか、現実を選ぶか悩んだ良平は、ついに現実を選択する。雪子を信州に連れ出して絞殺した。数日間、新聞記事を丹念に探したが山中での絞殺死体が発見されたという記事は見当たらなかった。偶然に会社の新しいCMに雪子とそっくりの女性を見る。雪子は死んでいなかった。明け方の寒さと夜霧で息を吹き返したのだ。だが雪子は記憶喪失となってエルムという喫茶店で働いていた。良平は「あなたの前歴を知っている。あなたをもとの世界に返したい。わたしといっしょに東京へ行きましょう」という手紙を渡した。雪子はやって来た。「あの、手紙を読みましたが、本当でしょうか」「あなたのことが出ている新聞を東京で読んだんです。ですから、もしやと思ってきたのですが、やっぱりあなたでしたね」帰りの汽車は奇妙な道中だった。良平は自分の手で締めた女といっしょに居る。彼女の白い咽喉には策条の跡はなかった。ああ、なんたることか。二人はあの雨の日に出会った時に完全に戻ったのである。だが雪子は、これまでと違った新しい雪子だった。あの忌まわしい夫がいるという悩みをもたない雪子だった。あるのは、新鮮な、生き生きとした、全く別の雪子だった。二人の幸福な生活は一月は続いた。
ここから映画と原作では大きく違う。映画では凶暴な夫が後を付け回して、ついに雪子を見つけ、汽車で良平と前夫は格闘し転落死する。雨の日、雪子が立っていると再び別の男の誘いにのるところで終わる。小説では、2年後、地方に左遷された良平は子どもを背負った雪子を偶然に見かける。前夫に連れ出されてよりを戻したのだ。だがその子どもはおそらく良平の子であろう。雪子の記憶がもどっているのかはわからない。
「たづたづし」は「小説新潮」昭和38年5月号に掲載された短編である。映画は原作のテーマを完全に無視したもので、ビデオ化もなく作品評価も低いであろう。藤田まこと・松本清張とは不似合いであるが、他の清張の映画化作品には見られない味がある。重苦しい心理サスペンスを藤田のコミカルな味わいが作品に幅をもたせている。藤田まことは二枚目半の大スターである。テレビ界で「てんなもんや三度笠」「必殺シリーズ」「はぐれ刑事純情派」と3本もヒットシリーズを成功させた役者は他にはいない。もっともこの映画は園まりの歌謡映画として企画されたものであろう。雪子という薄幸の謎の女性と園まりは適役であろう。この映画は女優園まりの代表作といってもいいだろう。昭和19年生まれ。本名、薗部毬子。小学校時代キングレコードに「つゆの玉コロリ」の童謡を吹き込む。昭和37年5月「鍛冶屋のルンバ」で歌手デビュー。カバーポップスからムード歌謡の昭和40年代前半、ヒットを連発していた。その独特の腹話術的歌唱法と愛らしい容貌でメロメロになった男性も多くいた。最近は懐メロ番組で復活したらしい。25年ぶりの新曲「2人はパートナー」(韓国ドラマ「初恋」の挿入歌)。まりちゃんのこれからのご活躍に、私祈ってます~♪。
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