なぜ岩波新書青版に名著が集中するのか
岩波新書の最新刊「ナグネ 中国朝鮮族の友と日本」最相葉月著まで3039点が刊行されている。 評論家の呉智英は「岩波新書は青版の600,700、800番代に名著が集中する」と言っている。多少独断があるものの、青版と広げると頷ける。岩波新書は1938年11月20日に創刊され、赤版→青版→黄版→新赤版と表紙が改められた。呉のいう600~899番は、1966年から1974年にかけて刊行された岩波新書である。なるほど代表作は多い。その執筆者の多くがすでに他界されている。最近の岩波新書から名著が生れないのは、知の劣化を意味するのであろうか。
世界史概観(599,600) H.G.ウェルズ
デカルト(602) 野田又夫
日本人の法意識(630) 川島武宜
知的生産の技術(722) 梅棹忠夫
漱石詩注(640) 吉川幸次郎
漢字(747) 白川静
音楽の基礎(795) 芥川也寸志
山の思想史(860) 三田博雄
背教者の系譜(862) 武田清子
資本論の経済学(733) 宇野弘蔵
性格はいかにつくられるか(652) 詫摩武俊
中国文学講話(696) 倉石武四郎
良心的兵役拒否の思想(720) 阿部知二
日本の政治風土(700) 篠原一
現代日本の民主主義(728) 宮田光雄
戦後日本の保守政治(737) 内田健三
人間であること(746) 時実利彦
知識人と政治(848) 脇圭平
だが前後の本にも名著はある。丸山真男「日本の思想」(434)、E・H・カー「歴史とは何か」(447)、石井桃子「子どもの図書館」(559)、湊正雄・井尻正二「日本列島」(963)、荒井献「イエスとその時代」(909)、堀田善衛「インドで考えたこと」(297)、蒲生礼一「イスラーム」(333)。中尾佐助「栽培植物と農耕の起源」(583)は我が国の農耕文化の起源を照葉樹林文化の一形態とみる考え方を提唱した。
武谷三男「原子力発電」(955)は原子力発電が未熟な技術であると説いているが、それは現在にも当てはまる。大田昌秀「沖縄のこころ」(831)も必読書。岩波新書の長所は完全無欠なものでなく、現在の問題を書き下ろしで提起して、どれだけ肉薄できるかにある。刊行後、数十年経てから、読者がその問題意識に気づかされるものもある。
2015年4月の新刊5点。
吉田伸之「都市 江戸に生きる」
稲垣清「中南海 知られざる中国の中枢」
坂井豊貴「多数決を疑う 社会的洗濯理論とは何か」
小林美希「ルポ 保育崩壊」
石川文洋「フォト・ストーリー 沖縄の70年」
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