芳水詩集
浅間山
八月高き山越えて
信濃に入ればなつかしや
山毛欅(ブナ)、樺、桧もろもろの
木と木と乱れ小枝には
老鶯の声さびて
雲は動かずとどまらぬ。
桔梗、刈萱、女郎花
小萩がもとに風たてば
旅なる人を乗せて行く
黒毛の駒も嘶きぬ
かえり見すれば東(ひんがし)に
浅間は高く聳えるを。
ふりさけ見れば浅間山
黒き煙の渦まきて
空より野辺に流れ落つ
山の麓の町町の
白き壁には日のかげの
赤く悲しくたゆたひて
評論家の清水幾太郎は「私の読書と人生」の中で有本芳水(1886-1976)の詩を少年時代に読んで、印象深く記憶に残ったと記している。東京日本橋の生まれである清水は田舎を知らず、芳水の詩に触れて初めて抒情性に浸ることを知った。芳水が主筆として活躍していた「日本少年」という雑誌を清水は愛読していた。1914年に「芳水詩集」が刊行されるが、清水は貧しくて80銭の「芳水詩集」が買えなかったという。(参考:三木良明「清水幾太郎の生き方の一考察」「鷹陵」第145号)
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