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2015年3月25日 (水)

岡本の手紙

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   若い頃、市立図書館で調査相談員だった頃の話である。市民から、夏目漱石の「峠の茶屋」という作品を読みたいという依頼があった。だが漱石全集を片っ端から探しても「峠の茶屋」という題名の作品が見つからない。よく話を聞くと、学生の頃、教科書に載っていたという。つまり「草枕」の有名な一節、「おい、と声をかけたが返事がない」の峠が舞台のシーンである。このように、かつての国語の教科書は明治文学の一章を抜粋して、相応しいタイトルを新たに付けて掲載していたこと、ときおりあった。有名な徳富蘆花「相模灘の落日」は「自然と人生」の中の「自然に対する五分時」という文の一章である。

次の国木田独歩の「岡本の手紙」も教科書や参考書でよく取り上げられていた。原典は「牛肉と馬鈴薯」である。

  この宇宙ほど不思議なるはあらず。はてしなき時間と、はてしなき空間、凡百の運動、凡百の法則、生死、而して小さき星の一つなるこの地球に於ける人類、其の歴史、げにこのわれの生命ほど不思議なるはなかるべし。これ誰も知る処なり。而して千百億人中、殆ど一人なりともこの不思議を痛感する能わざるなり。友人の死したる時など、独り蒼天の星を仰ぎたる時など、時には驚異の念に打たるる事あるは、人々の経験する処なり。されどこはしばしの感情にして永続せず。わが願は、絶えずこの強き深き感情のうちにあらんことなり。

 

  主人公の岡本誠夫の手記という形であるが、詩人独歩の哲学がはっきりと表現されている。宇宙の神秘はだれでも感ずることであるが、独歩のように直截的に文学として記した文章は貴重である。

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