老人と三人の若者
80歳にもなる老人が、果物の木の苗を植えていた。隣の三人の若者が笑っていった。「おじいさん。そんなことをして、なんになるというんです。働き損ということになりはしませんかね。そんな遠い未来のことに心をくばるより、過ぎ去った昔のことなど思いだして、のんびり暮らしたほうが、いいのではありませんか」「そういい切ることができますかね。命というものはほんとうにはかないものです。もちろん、わたしはこの木が実をつけるまで、生きてはいないでしょう。けれども、わたしの孫たちは、この木の葉陰で遊び、この木の実を食べることができるでしょう。仕事をしているという、そのことが喜びなのです」
老人の言葉は正しかった。若者のひとりは、成功しようと考えてアメリカ行きの船に乗った。しかしその船はあらしにあって沈没し、若者は死んだ。
二番目の若者は、えらい軍人になろうとして、戦地に行った。そして手柄をあせって、激しい戦いのなかに飛び出して、戦死してしまった。
三番目の若者は、木を切っていたとき、高い木のてっぺんから足をふみはずし、まっさかさまに落ちて死んでしまった。
「人の命は、神さまだけにしかわからないものだ」老人は、若者たちのお墓にお参りして、涙を流してつぶやいた。(「ラ・フォンテーヌ寓話集」)
« 風来坊の語源 | トップページ | 「ウサギとカメ」江戸の人は知らなかった »
「昔話・民話」カテゴリの記事
- マザー・シプトンの洞窟(2018.03.24)
- バアルの神殿(2018.03.20)
- 神に頼るな。自力で突破せよ!(2017.02.09)
- 運命の赤い糸の伝説について(2020.04.13)
- 幻獣バジリスク(2016.08.26)
コメント