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2014年10月 5日 (日)

フリードリッヒ大王と粉屋アーノルト事件(異説世界史)

    粉屋アーノルト事件とは、まだ公正であるべき裁判が金力権力に支配されていた頃の話である。と、いっても現代社会においても本当の意味で裁判が正義の名のもとに公正であるかどうかはわからない。いえることは、われわれがフリードリッヒ2世に遠く及ばない人間であるということだけは確かである。

    プロイセンのフリードリッヒ大王(1712-1786)は典型的な絶対専制君主としてその名が知られる。しかし、大半の人は「絶対専制君主」というレッテルから、暴君というイメージを抱くであろう。もちろん権力者であり、数々の戦争を引き起こしている。しかし、それだけでは真のフリードリッヒを理解したことにはならない。フリードリッヒ大王を知るうえには、この「粉屋アーノルト事件」を知れば、だいたいその人物がわかるであろう。

   プロイセンのノイマルク州のクリスティアン・アーノルトという男はシュメッタウ伯という貴族の借地人で、水車小屋をもち粉屋を営んでいた。だが、隣に領地を持つ郡長が、水車小屋の上流から水をひいて養鯉池をこしらえたため、アーノルトは水不足で仕事ができず、営業は大被害をこうむってしまった。アーノルトは収入の減少を理由に、シュメッタウ伯への借地料を滞納した。地主は裁判所に訴えアーノルトは敗訴し、水車小屋は競売に付されてしまった。しかしアーノルトは屈せず、地方裁判所に訴え、ついにはポツダムにおもむいて国王に直訴した。再度の上訴に心動かされたフリードリッヒ2世は、地方裁判所に勅令を発し、威圧的言辞をもって、アーノルトの救済を命じた。しかし、地方裁判所はふたたび同じ判決をくだした。判決書のコピーを一読した国王は怒り心頭に発し、国内の全裁判所への告諭の意味で次のような文章をドイツの新聞に載せた。

   「国王は、万人に対して、貴賎貧富を問わず、迅速に裁判がおこなわれ、だれであれ、身分にかかわりなく、すべての臣民に対し、首尾一貫した、かたよりのない法が適用されることをのぞむ」「けだし、もっともいやしい農民、それどころが乞食でさえも、王とおなじく一個の人間であり」、「法のまえではだれでもが平等であって、王侯が農民を訴えようと、農民が王侯を訴えようと…裁判所は身分の如何にかかわらず、正義のみによって訴訟をおこなうべきである」「もし裁判所が…自然の衝平を無視する場合には、国王をわずらわされねばならぬ。なぜなら、不正をおこなう際は裁判所は盗賊団におとらず危険かつ有害であり…法の仮面をつけた悪漢どもに対しては、なんびとも身をまもりえないからである」

   なんとも痛快な文面であろうか。こうして大王は不正な裁判官たちを厳しく難詰したばかりでなく、司法大臣を、「でていけ、お前はクビだ!」という一言で罷免した。他の3人の判事たちも拘束処分をうけ、この事件の関係した裁判官はそれぞれ処分された。アーノルトには完全な損害賠償をする命令が出された。かくして水車小屋はふたたびアーノルトの手にもどり、郡長の養鯉池はとりこわされた。(参考:成瀬治「大世界史13 朕は国家なり」)

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コメント

さすが世界史で数少ない大帝や大王の称号を持つ人物の言葉ですね。フリードリヒ2世が良く評価されている理由が分かります。所で勉強不足の私には絶対専制君主という言葉がしっくりこないのですが、これは黎明期における啓蒙専制君主の呼び方ということなのでしょうか。

歴史には過渡期という言葉がよく使われますが、16~18世紀に王権が没落していく領主などの封建勢力につくか、新興のブルジョワ勢力につくかでものごとが決定した時代があった。近代市民社会の成立以前の過渡期です。これを西欧の学者は絶対王政と呼んでいます。「朕は国家なり」というルイ14世という言葉に絶対君主の国家観が示されています。ところが18世紀のフリードリヒ2世は「朕は国家の第一の下僕」と言っています。近代化を押し進めたフリードリッヒ2世は、とくに絶対君主のなかでも啓蒙専制君主と呼ばれます。絶対主義諸国家は、領土拡大のための覇権をめぐって激しい抗争をくりかえしました。大王は近代国家形成への過渡期の人物といえます。

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