在原業平「水くくる」をめぐって
ちはやぶる 神代もきかず 龍田川
からくれなゐに 水くくるとは
古今集巻5の秋下の在原業平朝臣の歌。百人一首にも選ばれている有名な歌である。結句の「水くくる」には、古来から「水くぐる」と濁って読む解釈があった。つまり水をくくり染めにする説と、水を潜る説である。
中世においては「水くぐる」が通用していたらしい。顕昭の「古今集」註に「水くぐるは、紅の木の葉の下を、水のくぐりて流れるをいふ歌。潜字をくぐるとよむ」とある。(「顕註密勘」)江戸期の北村季吟の『拾穂抄』も「くぐる」と読んでいたらしく、契沖も『改観抄』に「錦の中より水のくぐると見ゆるを奇異のごとくみるゆへ」として「水くぐる」説をとっている。その後、賀茂真淵、本居宣長、香川景樹らが「水くくる」説をとり、今日ではその解釈が一般に通用している。しかしながら、百人一首の解釈は藤原定家らがどのように解したかということが重要であることから、あえて「水くぐる」としている注釈書もある。(島津忠夫「百人一首」角川文庫)(参考:石田吉貞「百人一首評解」有精堂、昭和31年、野中春水「異釈による本歌取「水くくる」をめぐって」国文論叢第3号)7
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