「滝の白糸」と「マダムX」
シェークスピアの「ハムレット」はトマス・キッドの「スペインの悲劇」が種本といわれている。そして志賀直哉の「暗夜行路」。時任謙作の境遇はハムレットと叔父クローディアスとの関係と相違するものの悩める王子という点は共通するものがある。志賀は活動写真でハムレットの芝居をみたそうで、そこから着想をえたらしい。スピリの「ハイジ」(1880年)も1830年ごろドイツで出版されたヘルマン・アダム・フォン・カンプの「アルプスの少女アデレード」に筋が酷似している。これなどは盗作といえるシロモノ。
尾崎紅葉の「金色夜叉」もパーサー・M・クレーの「女より弱きもの」に似ているが盗作というより翻案、あるいは着想を得たと言うべきか。夏目漱石の「草枕」の冒頭部分「山路を登りながら、かう考えた」の件(くだり)もイプセンの長編詩「高原にて」から着想をえたものらしい。不思議なのは新派の「滝の白糸」である。水芸人・滝の白糸は苦学生・村越のために仕送りをして勉学を助ける。やがて検事となるが、誤って高利貸しを刺殺した白糸を裁くことになる。原作は泉鏡花の小説「義血侠血」(1894年)。川上音二郎一座が翌年には初演している。アメリカ映画に「マダムX」という有名な作品がある。これまで10回も映画化されているが一番有名なのはルース・チャッタートンの1929年の映画。しかしこれはリメイクで1920年の映画が最初。原作はアレクサンドル・ビッソンの戯曲で1908年。男女の恋を「マダムX」では母ものに変えているがプロットは似ている。「滝の白糸」と「マダムX」との間に関連性はなく、偶然に似たような話ができただけなのだろうか。ビッソンより以前に原作があり、それを鏡花が翻案した可能性もありうる。(MadaneX,Alexandre Bisson,Hamlet)
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