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2014年2月 1日 (土)

高校世界史授業の思い出

    最近、高校「世界史」が必修であるにかかわらず、履修漏れが問題となっている。これほど{世界史」が新聞紙上で話題になったことはこれまで記憶にない。履修漏れが発覚した学校のある生徒は「学校、教育委員会が悪い」「世界史必修がおかしい」「いまさら入試に必要ない世界史を学習しても無駄だ」とネガティブな意見が多い。マスコミ報道も歴史教育の本質をおさえておかないと、誤った世論を形成する恐れがある。世界史学習にとっては逆風の最中、ケペルはあえて「今、なぜ、世界史を学ばなければならないか」考えてみる。

   このブログのカテゴリーで、「西洋史」「東洋史」とせずに「世界史」としているのは、高校「世界史」に強い愛着があるからであり、この「必修世界史偽装問題」に関心もあるが、ここでは教育論でなく単なる個人的な思い出話をする。

   一般的に「世界史」といえば高校世界史という科目の一つをさすようであり、歴史学のような学問を意味するニュアンスは少ないように思える。わかりやすい例でいえば「古典」は高校古文であり、国文学でないように。しかしながら、おそらく高校生のケペルは少数派だと思うけれども、「世界史」を科目というよりも、学問として捉えて勉強していたようだ。

   ケペルの高校時代「世界史」の担任は住田という教師だった。病弱で痩身、神経質そうな感じだった。よく岩波文庫を読んでいた。プラトンのイデア論の説明など、よく理解できなかったが、何度も説明していた。授業の進み具合は悪く、重要な17、18世紀ごろまで2年間もかった。(高校2年と3年の2カ年受講している)。実際、本当に高校世界史を教えようと思えばまる2年かかる。あれは大学の講義内容だった。おそらく1年間だけなら、ポイントだけをしぼった簡単な解説になるだろう。しかし、それでは本当の意味で「歴史がわかる」ようにはならない。住田史学に出会えてよかったと感謝している。当時、マルクス主義がまだ勢力があった時代だが、マルクス主義、マルクス史観を批判するのが口癖だったし、ソビエト崩壊も予見していた。「グローバル」という言葉は昭和40年代前半はまだ一般には普及していなかったが、インテリの間では使われていたらしく、住田もよく授業で使っていた。世界史という科目は入試対策には暗記項目が多くて明らかに不利だが、社会人となったとき必須の学問なのだ。科目としてとらえるか、学問として捉えるか、教える側、教えられる側の意識と信頼関係が大切だ。江戸時代の鎖国で国際情勢が何もわからないとき、佐久間象山に教えを乞う吉田松陰の例を引き合いにだすまでもなく、これから未来に向かってなにをすべきかと考える若者のためには現在の状況を知らねばならない。それはいくらテレビの評論家の話を聞いてもわからない。体系的な学問で築き上げられた世界史をめんどうで時間がかかっても、古代から現代まで通観して、かなりの見識のある教師の人間性にふれながら学習することで身につくと思う。テレビ通信講座の綿引の「世界史」や今の美人の先生のも見るが、やはり生の人間の講義を聞くことが一番である。映像と生の人間の肉声と脳に与える効果がどうちがうか、正確に立証できないが最近の科学知識では説明できるということを最近何かで聞いたおぼえがある。

    ケペルはいまでも高校世界史の参考書をいろいろ持っている。あとで古本屋で買ったものも多い。古本の参考書の世界史を収集するというのは、奇妙な趣味だろう。高校世界史はもちろん戦後できたものであるから、ほぼ60年近くなるが、参考書の好し悪しを論評したものを見たことがない。つまり、高校世界史の最も権威あり定番のものが何か知らない。むかしは、吉岡力のが一番だと聞いたが、いま現役の先生は何がおすすめなのだろうか。ともかく手元にある古いものを羅列する。

「絶対世界史」研数書院 昭和27年4月25日初版で改訂第8版(昭和36年)を所蔵。東京都世界史教育課程委員編集、並木正雄、遠藤克己、安藤清吉、鈴木貞三とあまり知らない先生の名前があるので、現場の教員が書いたものであろう。三部構成で、第1部は「世界の各地において人類はどのようにして生活し、文化を築き上げてきたのか」、第2部は「近代社会の形成を通じて世界はどのように一体化したか」、第3部は「現代社会の諸問題はどのようにして起り、その解決のためにどのような努力がなされているか」とある。一見して、マルクス唯物史観の発展段階を基本にしていると思われるが、高校参考書であるので、それほど唯物史観が前面にでているのではない。527ページと厚く、広告には「絶対の信頼」「くわしくて正確」とある「絶対シリーズ」の一冊である。

「世界史の徹底整理」今津晃 数研出版。初版はなんと昭和32年であり「受験準備の短期完成に」と副題があるようにコンパクトなのでケペルも入試当日も携帯した思い出の一冊。367ページ。

「精説世界史」 前川貞次郎編著者 数研出版 昭和37年2月1日発行、第6刷(昭和40年)を所蔵。前川貞次郎という西洋史で有名な教授を編著者にしているが、実際の執筆はアジア史は外山軍治、大島利一、日比野丈夫、ヨーロッパ古代・中世を鯖田豊之があたっている。いずれも京都派の一流学者。486ページ。

「世界史の完全研究」 井上智勇、田村実造編著者 清水書院 昭和40年7月10日初版、第8刷(昭和44年)を所蔵。井上は西洋史、田村は東洋史であるが、実際の執筆は、堀内一徳、間野潜龍、長沼忠兵衛、狩野直禎があたる。496ページ。

「世界史ハンドブック」 鈴木俊、井上幸治編 朝倉書店。昭和40年8月31日。定価が2000円と当時としては高価であり、学習参考書ではなく、「日本史ハンドブック」の姉妹篇として出版された学術書。文字は縦組み。執筆は鈴木俊、井上幸治、長谷川博隆、船木勝馬、青山吉信、青木富太郎、赤井彰、鳥山成人が分担している。537ページ。当時としては最高の概説書だった。

「技法世界史」鈴木亮、加藤正春、水口敏之 研数書院 昭和40年5月。東京都立高校の教諭の実践向き参考書。「問題点の追求」では例えば「秦の始皇帝の行った政治が、歴史的にどんな役割を果たしたか、いろいろな角度から考えてみよう」という設問し、3項目の角度から論述している。類書ないユニークさが特徴。413ページ。

「基礎力世界史」大野慎一郎、松俊夫 学習研究社 昭和42年3月 3D方式シリーズ。263ページ。定価330円と買いやすかった。お洒落なデザインだった。

「世界史の研究」 吉岡力 旺文社 昭和42年。世界史参考書の金字塔。詳細な記述、的確な叙述により、大学の入試問題をつくる先生も参考にしていると聞いたことがある。吉岡は1908年、山口県生まれで、東海大学教授であるが、多くの教科書、参考書を執筆した。教科書「世界史AB」(好学社)など。582ページで定価500円。

「新世界史」堀米庸三、前川貞次郎 数研出版 初版昭和45年4月1日、新訂版第7刷(昭和51年)所蔵。チャート式でカラーで恐らく最も売れた世界史参考書ではないだろうか。519ページ。

「解明世界史」羽田明、豊田尭、中山治一 文英堂 発行年不明。シグマベスト。体系的で詳細な参考書。543ページ。巻末の事項索引、人名索引も詳細で原綴りがある。

「図説世界史」里見元一郎 一橋出版 昭和56年4月1日。宇津木章、小名康之、柴田忠作、尚樹敬太郎、吉田寅。「生活・風土史を中心に、生きた歴史を求めて」と副題がある。図版が豊富。308ページ。

「詳説世界史研究」木下康彦、木村靖ニ、吉田寅、山川出版社。平成7年7月15日。568ページ。まえがきに「なぜ世界史を学ぶか」を引用する。「高等学校の教育課程では選択であった世界史が必修となった。現代という時代を生きるためには、世界史を学ぶことが必要であるという考えが強くなったからである。今、なぜ世界史に人々が関心を示すのか、なぜ世界史を学ばなければならない考えてみよう」とある。

「各国別世界史の整理」三省堂編集所 昭和54年2月1日。概観世界史が多いなかで、唯一の各国別の世界史。ルーマニア史とかブルガリア史とかユニークであり、本気で世界史を研究するなら必備の書。

「新学生の世界史」 理論活用叢書 中島敏・石木誠一 清水書院 1954

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「壮にして学べば老いず老にして学べばすなわち朽ちず」老年になって学ぶとは見識をもつことと思い知る。

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