作家の人生経験
やはり小説家は売れるまでに実生活でどれだけの経験をしているかが、後の創作活動の肥やしであり、貴重な原体験であるといえる。宮尾登美子は自伝的な歴史小説が多いが、満州から引き揚げ、昭和21年ごろ、保育園勤務の現場体験がある。遊郭や岩伍ものとは異なった体験は小説に幅をもたらしている。作家の職業体験は必要だが、戦争体験を余儀なくさせられた世代の作家は、やはり生死をみつめることと書くことへの執念が尋常ならざるものがある。梅崎春生は桜島の基地での通信員の体験をもとに「桜島」を書き、戦後の文壇にデビューした。中山義秀「テニヤンの末日」なども戦争体験したものでしか描けない秀作である。大岡昇平は俘虜体験をもとに「俘虜記」「野火」を書いた。後年、「レイテ戦記」では膨大な資料を駆使して、死者への鎮魂として小説を描いた。野間宏は「真空地帯」で軍隊内の腐敗と非人間的な実態を描いた。島尾敏雄は特攻体験をもとに「孤島夢」「島の果て」「出孤島記」を描いた。松本清張、司馬遼太郎には直接な作品は残さなかったものの文学の底流には軍隊体験が生きている。浅田次郎は2年間の自衛隊経験が作家修行に役立っている。
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