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2013年9月 7日 (土)

顔が思い出せない

   数年前に日本の美術展で公開された絵が思い出せない。ポスターに使われたロシアの代表的な作品のひとつ。雪景色をバックにして馬車に乗った若い女性が何やら物憂げな表情を浮かべている。アンナ・カレーニナを思い出させる。濃いまつげと赤い唇。流行の黒い毛皮のコートと帽子。なまめかしい感じである。だが顔が思い出せない。

     過去において経験し、学習したことを思い出す能力を記憶という。日常生活において年をとるにつれて健忘失語の例は多くなる。失語症(aphasia)という脳に障害があるのではなく、ちょっとした ど忘れは誰にもある。喉まででかかっているのに、思い出そうとしてもなかなか思い出せない。英語で Tip-of-the-Tongueと表現するところから、TOT現象という。脳科学での研究によれば、大切なことは、TOT現象では途中で脳活動を諦めない(思い出そうという努力を続ける)ことだという。脳の前頭葉を中心に活性化するという。

  「記憶の鍵」という言葉がある。思い出せない言葉、過去の出来事、人、歌(メロディー)などがあっても、それに関連すること、場所とか匂いとか、部分的な事柄が浮かんでくることがある。韓国映画「オーバー・ザ・レインボー」(2002)では8年間愛した自分の恋人の顔が思い出せない。ただその人がフリージアの花が好きだったことだけが記憶にある。人はみな小さなことから遠い記憶を再生しようとしているのかもしれない。

    冒頭に記した絵画はイワン・クラムスコイの「見知らぬ女」あるいは「忘れえぬ女」(1883年)という題のトレチャコフ美術館が所蔵する作品である。2009年ごろ「国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア」で出品されていた。「ロシアのモナリザ」といわれる。

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コメント

この作品、ずいぶん前に母が「この女性、気位が高そうね」と示してくれて強烈に印象に残ってあます。さぞや高貴な身分の人かと思いきや、発表された当時、娼婦だとかいろいろ憶測されたそうですね。
なんにせよ、どんな状況設定でこの眼差しなのか想像をかき立てられます。

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