書痴と映画
探求書のためなら手段を選ばず手に入れようとする人間の話は最近よく映画やドラマに登場する。「ビブリア古書堂の事件手帖」もマニアには面白かったが、愛書家というのが文庫本や戦前の本の類で、近世の話はなかった。たとえば芭蕉の「奥の細道」などの発見レベルであればもっと興味がわくだろうに。そんなときロマン・ポランスキー監督の「ナインスゲート」(1999)を観た。禿鷹と呼ばれるコルソ(ジョニー・ブップ)が中世の悪魔書の調査の旅にパリからスペイン、ポルトガルへ出かける。スペインでは双子の古書店から挿絵の名がLCFだと指摘される。悪魔王ルシファーLucifer。外国映画の古書にまつわる話は推理を超えてキリスト教やオカルトへと展開する。日本人には少し分かりづらいストーリーだが、古書の奥深さには感心させられる。この差はどうして生まれたのか。江戸時代も識字率の高さでは日本は世界一であり、書物保有率も高かった。残念なことに、図書館設置と製本技術の遅れがヨーロッパとの大きな違いであろう。西欧では王侯貴族たちは競って古書を集め、堅牢な製本に務めた。19世紀のオランダの画家ゴッホは放浪の貧乏画家のように思うかもしれないが、その家系を調べるとライデン大学の卒業者や聖職者、王室御用達の図書製本師(ハーグのカルベンツス家)など文化的に従事していた人が数多くいる。フランス、スペイン、ポルトガル、オランダ、ドイツなどにはいまも16世紀以降の古書が各地に数多く眠っている。そういうことを思うと電子化される現在、紙の本がどんどん廃棄されていくことに怒りを覚えずにいられない。
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書物の電子化は広く読者に利便を与えるだけの利点を追求した結果の産物。
遺品として歴史的なメモリーを記憶するには紙文化が妥当で、この使い分けが望まれますね。(・∀・)イイ!
投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2013年4月14日 (日) 16時48分