別れの下田桟橋
川端康成「伊豆の踊子」の最後の一節。
ずっと遠ざかってから踊子が白いものを振り始めた。汽船が下田の海を出て伊豆半島の南端がうしろに消えて行くまで、私は欄干にもたれて沖の大島を一心に眺めてゐた。踊子に別れたのは遠い昔であるような気持ちだった。
映画では薫が桟橋を走り、「さよなら」と別れを告げる感動の場面である。ところが、内藤洋子版(1967年作品)では、有名な別れの桟橋シーンがない。書生は宿でさよならと言い残して立ち去る。薫は、後ろを向いたまま「さよなら」と口にする。船は出航し、甲板に佇んで学生は涙を流す。薫は、いつものように、お座敷で太鼓を叩いている。その表情は固く、真剣に芸道に打ち込む薫のラストカットで映画は終わる。田中絹代から山口百恵まで6度の映画作品で薫と学生が別れの桟橋シーンがないのは内藤洋子版だけであるが、恩地日出夫監督の演出がよいという人もいる。
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