趣味と流行
村上春樹の新作「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」発売にファン殺到。文芸書が1日で何十万部も売れるというのは驚異である。村上ファンが多いのと不況にあえぐ出版界がブームを待望しているのであろう。趣味と流行は表裏一体である。「趣味」という言葉がいつからよく使われるようになったのは明らかではない。主に3つの意味がある。①感興をさそう状態②好み③hobby。言海(1881-1891)には「趣味」という語が収録されていない。夏目漱石などの本にはさかんに「趣味」という言葉が現れるので1905年以降には一般的な言葉であったと思われる。hobbyという意味でも使われるが、「好み」で使われることが多い。「ハイカラ趣味」という言葉が生まれたのも1900年以降であろう。「ハイカラ」high collarとは高襟(たけの高い襟)のことで、毎日新聞の記者・石山半山が洋行帰りを皮肉って呼んだ言葉で流行語となった。同時に洒落た洋風生活も流行しだした。つまり「趣味」という言葉が普及したのは消費生活の中に取り込まれて広まったといえる。漱石の「虞美人草浴衣」などが三越呉服店で発売されたのも1907年ころである。明治末期において「趣味」という言葉は近代的で文化的な香がしたのであろう。易風社から「趣味」という文芸雑誌が刊行されたのも明治39年のことである。
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